INTERVIEWS

強者達が『軌跡』の名の下に集結
2017年に生まれた日本語ラップ史の金字塔
DJ KRUSH

取材・文:Yanma(clubberia)
写真:Tomohiro Noritsune



 2017年5月27日、東京・渋谷のクラブSOUND MUSEUM VISIONで行われたパーティーは歴史的な一夜となった。OMSB、チプルソ、呂布カルマ、Meiso、5lack、志人、RINO LATINA IIが順次登場しラップを披露していく。最後には彼らがステージ上に登場し、RINOから始まったマイクリレーはまさかの「証言」だった。この夜、この強者達のラップにサウンドで背景を描いていたのが、DJ KRUSHだ。今宵は彼のアルバム『軌跡』のリリースを祝した宴だ。それにアルバムの参加ラッパーが一堂に会したわけだ。(R-指定(Creepy Nuts)だけ大阪での公演があったため参加できなかったのが残念だったが、DOMMUNEでDJ KRUSHとは共演した)
 伝説的な一夜から遡ること約2週間、編集部はDJ KRUSHに取材を行っていた。



音楽でこのラッパーの後ろの景色を描きたい

——各曲のイントロがすごく攻撃的で、そこにラッパーがアンサーするかのように入ってくるので対決しているように聴こえました。ラッパーも8人いるので、それこそブルースリーの映画『死亡遊戯』のように。
 
ヒップホップにおいてイントロって特に大切だと思う。どう始まるかで、もっていかれるか、いかれないかってことが決まるよね。扉をバンと開いたときに、どういう景色が見えてくるのかっていうね。今回、ラッパーと対決するっていう気持ちはあったんだけど、会ったことのない人や初めてやる人が多かったから、いかに歩み寄れるかということを一番考えた。難しかったのは、参加してくれた皆の個性がすごく濃かったこと。DJ KRUSHという個性をトラックに醸し出しつつ、ラッパーの個性をしっかり乗せて足していくってことが。俺が後ろでガチャガチャやるとラップが死んでしまうから。その引き算が難しかった。
 
——たしかに個性の強いメンツですよね。KRUSHさんにとって彼らはどういうラッパーですか?
 
「音でこのラッパーの後ろの景色を描きたい!」ってことを思わせるラッパー。あとは、やれ金だ、女だ、高級車だなんて言わずに日本に生きていて考えを発して投げかける、みんなどう思う? みたいなことを言ってるラッパーのほうがピンとくるかな。今回のアルバムのタイトルが『軌跡』、意味はまず、俺が25年歩んできた足跡だったりするけど、各ラッパーの足跡でもある。みんなそれぞれ歩いてきてるわけじゃない? みんなそれぞれに、いろんなことがあったと思うよ。「各自の足跡、軌跡を語ってくれ」って伝えたら、みんなの切り口はすぐにできてたよ。


SOUND MUSEUM VISIONでのリリースパーティー。写真上:MCはOMSB。写真下:MCはチプルソ。


——深読みしたことがひとつあって『軌跡』っていうタイトルで10曲構成。本作が10枚目のアルバムだったので、アルバムの1曲目はファーストアルバム『STRICTLY TURNTABLIZED』をイメージした曲。2曲目はセカンドアルバムをイメージした曲。そういう組み合わせをしたのでは?と思ったりしました。
 
次のインタビューからそうしたって言おうかな(笑)。正直に言うと、たまたまですね。


——過去の作品は聴かれたりしますか?
 
1枚生み落とすと家であまり聴かなるし、頭も次にいってるしね。だからあまり振り返らない。前作『Butterfly Effect』出したときに「11年経ちましたね」って人から言われて「そんな経ってるのか」って思ったよ。
 
——KRUSHさんの作風のひとつに和楽器を取り入れたサウンドがあります。日本語ラップも外国人からみればエキゾチックなサウンドに聴こえるかなと思ったので、それを意図しての日本語ラップだったのでは?と思いました。
 
『軌跡』で“日本独特の音”でということは意識してなかったね。ただ「結 -YUI- feat. 志人」は、セミの声だったりの音は入ってる。あれだけはちょっと意識した。この作品で日本的やDJ KRUSH感を感じるのであれば、空気感だったり間だったりとか、そういうところで自然に雰囲気がでているんじゃないかな。


SOUND MUSEUM VISIONでのリリースパーティー。MCは志人。


——DJのときの話になるのですが、いつも思うことがあります。残響音とスネアの乾いた「カーン」って音がKRUSHさんならではだなと。
 
みんなそう言うね。スネアがスコーンって抜けるって、独特だって。それと残響音はミキサーに付いているディレイだね。VestaxのDJミキサーを使っているんだけど、他のDJミキサーのデジタルディレイでは出ない空気感が出せるんだよ。一回VestaxでDJ KRUSHモデルのDJミキサーを作ろうって話になったんだけど、あのディレイを再現できるチップがなかったから、その話はなくなったんだよね。で、DJはSerato DJを使ってる。アナログレコードじゃないから必ず家でマスタリングみたいなことして、抜けをよくしたりしてる。Serato DJも改造してるし、それで昔のVestaxのアナログミキサーを通ってるから、独特の音になってるんだと思うよ。
 
——でもVestaxはなくなりましたよね、壊れたらどうしているんですか?
家に12台ぐらいある(笑)。ヤフオクとかでたまにチェックしてさ。ぶっ壊れて使えないものとかも買ったりして。部品取りでね。山ほど積んであるよ。



SOUND MUSEUM VISIONでのリリースパーティー。写真上:MCは呂布カルマ。写真下:MCはMeiso。



Mo' Wax、さんピンCAMP、ラップブーム、2020年東京オリンピック
DJ KRUSHの過去、現在、未来


——そうだったんですね。話を脱線させてみるものですね(笑)。アルバムの話に戻って、音で一番驚いたのが5lackさんとの曲「誰も知らない」のベースの音でした。どうしたらこんな、太く挑発的な音が出せるんだと。
 
歪みまくってるし、不良っぽいし男っぽい(笑)。ああいうの好きだね。あれはサンプリングだね。でもあのベースは、もうちょっと綺麗だったんだよ。わざと歪ませて太くして。ドラムもすごいでしょ。グルーヴもすごいし、あれに5lackのフロウがのってきたときは俺もぶったまげた。綺麗に縫うようにのせてきてたからね。さすがだね。それで相乗効果で面白い曲になった。俺も気に入ってるよ。
 
——RINO LATINA llさんとの曲「Dust Stream」ではRINOさんが「ヒップホップブーム知らなきゃ時代遅れ、横目に深くかぶったフード」というリリックがありました。これはKRUSHさんのことを言っているのかなと思ったんです。ちょうどKRUSHさんがMo' Waxから『STRICTLY TURNTABLIZED』をリリースしたのが94年。95年に日本では「さんピンCAMP」があった。KRUSHさんは海外を主な活動の場にしていたから、日本のシーンをRINOさんが言ってるように横目で見てたのかなと。
 
当時、日本が盛り上がってきたときに、俺は海外を一人で開拓しながら歩いてる最中だったよね。横目で見ながらも、「みんな頑張ってるんだな。俺も一人だけど自分なりのヒップホップを探求していくしかないな」っていうぐらいの気持ちだったかな。自分のことで精一杯だったんだよ。俺も若かったし、人を見てどうのこうのっていう余裕はなかった。でも母国で起きてることだから大きくなればいいなと思っていたよ。

 
SOUND MUSEUM VISIONでのリリースパーティー。MCはRINO LATINA II。


——今の日本のヒップホップブームと似ている部分があると思いますが、いかがでしょうか?
 
今回アルバムに参加してくれたみんなのラップを聴くとおり、25年前とは月とスッポン。いろんなタイプの日本語のMCが育ってきてるし、レベルも高い。中高生とかもやってるんでしょ? それだけ広がったんだね。それが一過性のブームで終わるんじゃなくて、文化として残っていけばいいなと思うよ。でもここに来るまで25年もかかったんだよ。その間には、DJブームがあったし、ブレイクダンスブームもあったし、いろいろなカルチャーが盛り上がったり下がったりした。ラップブームとともにDJももっと頑張ってほしいし、世界に負けない音作り、独自の音を作る個性的なプロデューサーが出てくれば最高だよね。音を支えてくれるやつがラッパーと一緒に上にいかないとダメだと、DJの立場の俺は思うね。


——先程少しMo' Waxの話が出たので伺いますが、Mo' Waxからデビューするきっかけになったのが雑誌『Straight No Chaser』だったと。そのディレクター、Paul Bradshawはジャズの人ですよね?
 
でもあの人はいろんな音楽を聴いてるんだよね。90分テープにデモ曲をいっぱい入れて2本ぐらい渡したのか、送ったのか…。それを彼はちゃんと聴いてくれたんだよ。そしたらそれがチャートに入ってGilles PetersonとJames Lavelleが注目してくれて。
 
——KRUSHさんもジャズの影響を受けていると思うのですが、それこそMiles Davisの死刑台のエレベーターのサントラをフェイバリットに挙げられていたりしていたので。当時Paul BradshawはどのようにDJ KRUSHの音楽を受け止めたのかなと思いますか?
 
当時ジャズをサンプリングしていた人ってあんまりいなかったんだよね。ジャズネタ使っているからジャズだねって解釈でもなかったと思うし。ジャズ的なものを感じると思うけど、ヒップホップではあったし。あの雑誌はいろんなものを、ちゃんと評価していたよ。ジャズ以外にも。広い目で何かを感じ取ってくれたのかな。


SOUND MUSEUM VISIONでのリリースパーティー。MCは5lack。


——最後に。クラブミュージックに関わるものとしての希望なのですが、2020年東京オリンピックのときに、KRUSHさんが音楽で関わることがあったら、私たちも誇りを持てると思うのです。その可能性はあったりしますか?
 
このDJ KRUSHの音を良しとしてくれるならいつでも出ますよ。オリンピックだろうがなんだろうが。でも俺は曲げないよ。DJ KRUSHというものをちゃんと理解して使ってくれるんだったら、このままやります。俺はこのままでしかできないし、それを曲げてまでもお願いしますと言われるんだったら俺は一切やらない。地下に潜っちゃうからね(笑)。


[作品情報]
アーティスト:DJ KRUSH
タイトル:軌跡
発売日:6月7日
 
■DJ KRUSH公式サイト
http://www.sus81.jp/djkrush/

 
PREV
sons of AHITOは、 
とにかく埋もれている奴らを拾っていく
sons of AHITOは、
とにかく埋もれている奴らを拾っていく
NEXT
“The Studio Wizard”と呼ばれた男、Paride Saraceni
“The Studio Wizard”と呼ばれた男、Paride Saraceni