INTERVIEWS

DJたちが足繁く通う「Phonica Records」。ロンドン中心地で長年続けられる秘訣

取材・文:Norihiko Kawai, Kumi Nagano (posivision Amsterdam)
写真:Phonica Records, Norihiko Kawai

 
音楽フォーマットがデジタル化の波の中にあった2003年、ロンドンの繁華街ソーホー地区に、Phonica Recordsは時代の波に逆らいオープンした。広々とした店内には、多数の試聴機、所狭しと並ぶアナログレコード、マニア心をくすぐるレーベルTシャツ、売り上げ減少が心配されているCDも扱っている。常連客としてFour Tet、Floating Points、Erol Alkanなども足を運ぶ。取材当日には偶然にも、DJ NORIも店内でレコードをディグしていた。
 
大きなフェスやBoiler Roomのようなストリーミングが時代に革命を起こし、誰もがエレクトロニックミュージックを聴くようになった現在。古くからのレコードショップが次々となくなっているなかでも、存在を保ち続けるPhonica Records。その秘訣をマーケティングマネージャーのJuan J. Lopezに現地オフィスで聞いた。


 


 
——まず、Phonica Recordsオープンの経緯から教えてもらえますか?
 
Phonica RecordsのファウンダーであるSimon Rigg、Heidi、Tomは、もともとKoobla Recordsという別のレコードショップを運営していたんだ。そのとき、お店にThe Vinyl Factory(UKの音楽企業)のクルーがやってきて「レコードショップをオープンさせたいんだ。君たちの好きにやっていいから」とオファーをもらったんだ。The Vinyl Factoryはすでに、アナログレコードのプレス工場と、FACT誌を持っている企業だったから、そのオファーは願ってもないチャンスだったんだ。
 
——現在、スタッフは何人いますか?
 
今は7人のフルタイムと、インターンで構成している。過去にWill Saul、Secret SundaysのJames Priestleyが働いていたこともあるよ。ファウンダーの一人でもあるHeidiは、誰よりもいいレコードを知っているよ。
 
——Phonica Recordsのコンセプトを教えてください。
 
「ハウスやテクノをメインに、幅広いセレクトをする店作り」というビジョンがあったんだ。当時、ロンドンのほとんどのレコードショップはレゲエならレゲエ、ロックならロックと、あるジャンルに特化していた。でもPhonica Recordsはテクノやハウス、エレクトロなどのダンスミュージックをベースに、エレクトロニカ、ファンク、ソウル、ディスコ、ヒップホップ、レゲエなどを扱っていた。“これらのジャンルの欲しい作品は、ほぼ揃うお店”、“ハウスとテクノならPhonica Records” といった認識を確立していったんだ。最初はKompaktやベルリン系のミニマルサウンドなど、当時ロンドンにあまり入ってきていなかった最新のジャンルを扱っていたのも、受け入れられた要因のひとつだと思うよ。
 
受け入れられた要因のもうひとつに、視聴のしやすさがあるかもしれない。当時ロンドンのレコードショップは、少し敷居が高くてね。視聴するにも毎回カウンターの向こうのスタッフに全て伝えないとならなかったけれど、Phonicaは視聴ブースを多めに設置しているから、DJやコレクターに限らず、どんな人でも視聴しやすい環境を作ったんだ。
 
——たしかにお店には、さまざまなお客さんが来店していますね。
 
観光客も含め、たくさんの人が来てくれているよ。海外からだとイタリアからが多いかな。イタリアには素晴らしい音楽カルチャーがあるけど、レコードショップがどんどんなくなってしまっている現状もあるんだ。だから、わざわざロンドンまで来る人がいるんだ。家族連れで来店する人も多くて、父親がレコードを掘っている間に、奥さんや子どもは雑誌を読んだりくつろいだりしている。お店にそのような空間を持つのは大事だと思っているよ。“誰にとっても訪れやすい場所”というのを心がけている。ただ、週末は視聴コーナーに列ができて混雑し、お客さん一人一人とコミュニケーションが取れないことも多いけどね。11:30のオープン時に、店の外に開店を待つ人の列ができていることがよくあるよ。他の欧州の国ではありえない光景だよ。



——WEBと店頭セールスの割合はどうですか?
 
だいたい半々。売り上げはここ数年安定していて少し上向き。巷では、レコードのセールスが近年伸びていると報じられているけど、エレクトロニックミュージックに限ると、横ばいといった感じだね。
 
——インストアイベントの良い噂をよく聞きます。
 
そうだね、少し前にはEllen Allienもプレイしたよ。彼女は大きなフェスでのプレイが多いけれど“Vinylism”というプロジェクトをやっていて、いろんな国のレコードストアでプレイしている。ほかにも、Roman Flügel、Black Madonna、DJ Natureをはじめ、多くのアーティストがプレイしてくれた。ロンドンの中心地で、エントランスとビールがフリーのイベント。音楽好きが集まって、いい出音でいい音楽を楽しむ、とてもシンプルなコンセプトさ。レコードストアデイでは、Factマガジンがストリーミングをやってくれて、4万人以上が観ていたけれど、お店には3,000人が集まってしまい、長蛇の列ができてしまったこともあるけどね(笑)。




——自社レーベルについて教えてください。
 
レコードショップだけでなく、2009年からはレーベルもやっている。ディスコからテクノまで、フロアのみでなく音楽性も重視したメインレーベルがPhonica。そのほかに、音の趣向や方向性を違えた4つのサブレーベルがある。なかでもフロア志向の高いレーベルがPhonica White。韓国出身のPeggy Gouをプッシュし、今ではとても売れっ子になったね。Phonica Whiteは、無名の新人を発掘することも意識している。あとは、リスニング向けのPhonica Special Editions、国内外のディープハウスを扱うKarakul。Alex Bradleyがその音楽とアートをキュレートするUtopia。Utopiaの1stリリースはSoichi Teradaのもので、Manabu Nagayamaのリイシューもリリースした 。Maria(Yasuaki Shimizu)や、Midori Takadaのリイシューも印象的だったね。Midoriは2017年4月にロンドンへ来た際に、Phonicaにも立ち寄ってくれたよ。日本には素晴らしいセレクターがたくさんいるし、まだ世界に知られていない良い音楽もたくさんあると思う。だからロンドンに来た際は、お店に中古レコードをたくさん持ってきてほしいよ。
 
——レーベル運営やインストアイベント以外の活動はありますか?
 
レコードショップからスタートしたけれども、今は多角的にアプローチしているよ。最近、「Off the record (http://offtherecord.net)」というメディアをはじめたんだ。いろいろなコンテンツをアップしているから、ぜひチエックしてほしい。
 
——ダウンロード全盛時代にオープンし、来年で15年目を迎えるわけですが、続いている秘訣はなんだと思いますか?
 
音楽には、その時代ごとに波があると思う。例えば、流行っているローファイハウスに特化したとしても、そのトレンドが去ったときにビジネスが上手くいかなくなってしまう。Phonicaはダンスミュージックを軸にしながら、幅広いジャンルを扱ってきたことで、そのリスクを分散できたと思う。とくに近年のトレンドは、移り変わりが早いから大変だよ。今もファウンダーのSimon Riggが、音のセレクトを最終的にしている。僕らが良いと思った音源は彼に聴いてもらって、実際に仕入れるかどうかの判断をしてもらっているよ。そのセレクションは常に確かな目で選ばれているんだ。だからトレンドが去った後でも、僕らの手元にはまだまだ良質なダンスミュージックが残っていた。それが生き残り続けられた理由かもしれないね。

写真左からJuan(Marketing Manager)、Callum(Logistics Manager)、Sam(Marketing Assistant)、Alex(Label Manager)


——ここ数年ロンドンのクラブミュージックシーンはどうですか?
 
ロンドンのクラバー、プロモーター、箱のオーナーなど音楽関係者と話をすると必ず出てくる言葉が“ジェントリフィケーション”(※地価の安かったエリアの価値が見直され、中産階級以上の人々が流入することで、そこに住んでいた低所得のクリエイターや、アーティストが住めなくなってしまっている現象)。ここ数年でまた、多くのレコードショップが閉鎖している。24年も続いていたダブステップやドラムンベースのBlack Marketをはじめ、次々と閉店していったよ。突然大家から「家賃を倍にする」といわれ契約を更新できなかったお店もある…。このお店の近くに、もうひとつクラシカルなミュージックのレコードショップがあったけど、彼らもクローズしてしまった。主に中古を扱うオールジャンルのMusic & Video exchangeという店もしかり。
 
ロンドンのアンダーグラウンドカルチャーにおいて大切なものが、どんどんなくなってしまっているよ。Plastic Peopleみたいな良質な中小のヴェニューが閉店して、ファンシーなカクテルバーや1,000人以上の大箱にとって代わった。“Temporary event notice”(営業許可のあるクラブやヴェニュー以外で1回限りのパーティーをやるための許可)というライセンスがあるのだけど、最近このライセンスを取得するのが難しくなってしまった。2011年頃に多かった1回限りのアンダーグラウンドなパーティーも少なくなった。その代わり、チケット代が£30〜40以上するオーバーグラウンドなイベントや大型フェスティバルの形式が多くなったと思う。
 
——ロンドンのレコードショップは、どんどん減っているんですね。
 
なくなった店も多くあるけど、個性的な新しいレコードショップもオープンしているよ。レーベルから派生して実店舗を構えたり、扱うジャンルを絞った小さなブティックみたいなレコードショップが増えたんだ。ダルストンのKristina Records、エレクトロニックミュージックを扱うRye wax、レーベルとしても知られるLobster Thereminが運営しているLobster RecordsやBlackest Ever Black のファウンダー、Kiran Sandeがイースト・ロンドンに今年オープンしたLow companyなどだね。
 
——Phonicaは2018年で15周年を迎えますが、今後どのようなお店でありたいと思いますか?
 
ジェントリフィケーションの影響もあって、ロンドンの中心地区でレコードショップを続けていくことは簡単なことではない。でも、このままやり続けていこうというスタンス。デジタルで音楽が聴ける時代に、レコードという形あるものを、ネットだけでなく実店舗でも売る。それは単に「販売する」という目的だけでなく、「人と人とが交わる場所として機能したい」という想いがあるから。インストアイベントも時々やっているから、アーティストが訪れることで、いろいろな人と出会えるコミュニケーションスペースとしても機能している。デジタルダウンロードサイトは、そういった出会いや体験は生み出せないよね?

 
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