INTERVIEWS

Ree.Kの創造性。その根底にあるもの

取材・文:bluestract records
写真:Keiichi Nitta(ota office)
 
 変わり続けながら、変わらない。変わらずに、変わり続ける。Ree.Kにはそんな形容がふさわしい。アーティスト活動開始以来、彼女はジャンルの境界を侵しながら領域を広げ、たゆまぬ変化を遂げてきた。しかしその音に宿るエッセンスは、一貫して変わることがない。常にオープンでありつつ、かつ軸がブレることのない、強度ある持続的変化。本当の進化というものは、そのような変化のことを言うのではないだろうか?
 
 平成最後の1年間も、Ree.Kは進化の階段を駆け上り続けた。2018年2月からの海外ツアーを経て、12月には最新トラック2曲を収録した『DELTA 03 / Daydreaming EP』のリリース。2019年2月には、トランス黎明期の95年から98年までの楽曲を中心とした未発表作品を含む、トラック集第1弾『Early Tracks 1』をリリースする。この2作品をひっさげて、1月から国内リリースツアーを、その後は海外ツアーにも乗り出す。
 
そんなRee.Kへのインタビューを前編・後編に分けてお届けする。今回のテーマは『Daydreaming EP』について。本作は、12インチレコードとして海外のディストリビューターからリリースも予定。いずれ逆輸入というかたちで、日本でも流通されるはずだ。
 
 
知人からの一言が、Ree.Kの創作活動に大きな影響を与えた

——2018年もRee.Kさんにはかなり濃い1年だったようですね。
 
うん。ベルギー、アムス、アテネなどでDJをやったし、ポルトガルの「BOOM FESTIVAL」にも参加しました。とくにBOOMはすごかった。もう20年も開催してるんだけど、ずっと同じ場所でやってるんだよね。リスボンから車で3時間ほど行ったところに湖があって、そこの広大な敷地にBOOMランドがあるの。世界中からそこへ働きに来る人たちが集まって、皆で協力しあって木を植えたり、小屋を建てたりしていて。奥のほうへ行くと畑があったり、素敵なキッズエリアもある。回を重ねるほどに、確実に大きなコミュニティが完成してきている感じがして感動した。
 
——昨年12月には最新トラックをLiquid Drop Grooveからリリースされて。
 
そう『Daydreaming EP』。2017年にMatsuri Digitalからシングルカットした『DASS』に次ぐ、オリジナルトラックなんだけど。その両方で誘ってくれたのが、Liquid Drop Grooveのオーナーであり、DJ TSUYOSHIくんが主宰するMatsuri DigitalのスタッフでもあるYUTAくんなの。2016年9月に八丈島で開催した彼のパーティーに、私がライブで参加したんだよね。せっかくライブをやるんだったら全曲オリジナルの新曲にしよう、誰も聴いたことのない曲にしようと思って気合い入れて作って。その中の1曲が『DASS』だったの。Matsuri Digitalからリリースしたら、YUTAくんが「Liquid Drop Grooveのほうでもぜひ新曲を出しましょう!」ってオファーをくれて。それが『Daydreaming EP』として実を結んだという流れです。
 
——『Daydreaming EP』収録の2曲は『DASS』とはまた違うタイプのダンストラックですよね。Matsuri Digitalはサイケデリックトランスレーベルで、Liquid Drop Grooveはサイケデリックテクノレーベル。やっぱりその違いを考えてのことですか?
 
レーベルやパーティーの個性というのは、もちろん意識します。それは当然だし、そうでなければ少し失礼な話だとも思う。だけど、いわゆるジャンルなるものの呪縛によって自分の表現を曲げるようなことはしたくなくて。そのことに関しては、原体験のような出来事もあるんだよね。ずいぶん昔の話、1988年ごろの話なんだけど……
 
——教えていただけますか?
 
当時、機材をいろいろ買い集めて思うがままにドラムの打ち込みができる自由を満喫しながら、“トゥクトゥクトゥク”っていう感じのフィルを入れてテクノっぽい曲を作ったの。まあ、 “テクノ”と言っても今とは少し違うテクノだった時代の話なんだけれども……。その曲を知人に聴いてもらったら「テクノにああいう音は入んないよ」って言われたことがあって。
 
——ダメ出しをされた?
 
そうなんだけど、その人にはかなり感謝しているの。今までそういう見方をしたことがなかったから。自分とは別の見方があるんだなって、教えてもらえた気がした。「テクノにああいう音は入んないよ」って言われたとき、まずは「うん、知ってる。確かにテクノにそういう音はあまり入らないよね。知ってるけど、自分はその音を入れたかったんだ。誰もやったことがないことは、やってはいけないのかな?」みたいに考え始めたんだけど、この経験が自分の中で大きくて。
 
それから、いろんな角度で考えるようになった。「そもそもテクノって、何をもってテクノとするんだろう?」とかね。やがて見えてきたの。その人にとってはダメだったんだろうけど、自分にとってはダメではなくて、単純に認識の違いだけなんだって。私はもっと自分の認識を大切にして、自分のやりたいことをやればいい。それがやりたいから。だからそうする。“テクノを作ろう”と思ってこの曲を作ったけど、“テクノの曲だから”と思って作ったわけじゃなかったんだよね。そういうことにも気付けて。
 
——今のRee.Kさんの根っこにある考え方につながってくる話なのでは?
 
そうなの。自分にはない見方もあるんだなって知れて、そういう見方を理解できるようにもなった。だけど、自分の見方は違う。テクノだからとか、あるいはトランスだからとか、認識上の分類に囚われて自分を曲げたり押し込める必要はない。大切なのはそこではない。そういう答えに行き着くことができたんだよね。だからこのEPでも、「ザ・テクノな曲を作ろう」とか、そういう発想はあまりなかった。
 
Daydreaming EPに収録された2曲の視聴はこちらから。後半はこの2曲についての話へ。
 
 
自身の性格が反映された新曲。その制作の裏側とは?
 
——制作過程での苦労話とか、ありますか?
 
ものすごく短期決戦でした(笑)。オファーを受けて制作に入るケースが多くて、締切までだいたい2ヵ月。それなのに1曲目の『Daydreaming』の最初のフレーズが出てくるまでに1ヶ月かかってしまった。でも、私は締切のある進行のほうがよかったりもします。締切がないといつまでもダラダラ終わらないエンドレス体質なので(笑)。
 
——だからストイックな曲が多かったりするのでは?
 
そうなの(笑)。変なふうに真面目というか、自分のなかでSとMの両方が回り続けるというか。自分の性格や性質が曲に出ちゃってる気がする。
 
——1曲目の『Daydreaming』とか、硬派な音ですよね。クールだけど熱さも秘めながら上がっていく感じで。Ree.Kさん、硬派ですもんね。
 
人が出るんだね(笑)。じつはこの曲を支配しているベースのフレーズには、サンプリング音源でも同じようなメロディのループがあって、最初はそれを使おうと思っていたの。だけど作り込んでいくうちに「違う音にしたい」って思って、別の音色にするためにシンセで打ち込み直しました。あと曲の真ん中あたりで展開があるでしょ? そこが最初にできて、あとから前後を肉付けしていきました。
 
——2曲目のImeruは、アシッドハウスやアシッドテクノな匂いがしますよね?
 
1曲目をクールな感じの音にしたから、2曲目のImeruはカラーが違うのにしようと思って。これはソフトウェアシンセ大活躍の曲。フレーズの和音を分散してループさせられるアルペジエーターという機能があるんだけど。その機能を使って、レゾナンスで音色も変えたりして“ニュ〜ン”とか“ビヨビヨビヨ〜”と遊びながら、フレーズをたくさん作って録音したの。次に、それらをパーツとして繋げながら、ひとつの曲に組み立てていった感じ。
 
すっかり昔の話だけど、TB-303っていうアシッドな音を奏でるアナログベースシンセの元祖的な名機があったじゃない? あれと同じことをソフトシンセでやったというイメージで、それがアシッドテイストになった要因かな。TB-303が大好きだったから、楽しく遊びながら作らせてもらいました。
 
——タイトル『Imeru』の意味は何ですか?
 
この曲、なんか電気がビリビリしてる感じでしょ(笑)。そのイメージで名前を付けたいと思って探したら、Imeruという言葉に出会ったんです。これはアイヌ語なの。神様の光とか稲妻とかっていう意味で、それなら電気ビリビリっていう感じの意味も込められてそうな気がして。なんか不思議な響きでしょ、謎めいていて。
 
——『Daydreaming EP』で、とくにこだわった点は?
 
“現場での響き方はどうか”ということに強くこだわった。フロアで鳴らしたときの響き方、とくに低音のね。『Daydreaming』も『Imeru』も曲ができたらすぐにパーティーで実際にかけて、音の響き方やお客さんの反応を確かめて。あと熊本の馴染みのクラブに頼んで営業時間外にパソコン持参で鳴らして編集もした。そういうことを念入りにやりました。
 
——自宅のスタジオでも大きな音で鳴らせますよね?
 
もちろん。家にもよく鳴るスピーカーを入れていて、大きくも鳴らせる。だけど、やっぱり現場で実際にかけると違うよね。何度か現場で試して、調整し直すというプロセスを繰り返してフィニッシュさせました。正直、今までの作品では、リリースした先のことを今回ほど考えてはいなかったな。事前に自分の曲を現場でかけてチェックすることはもちろんあったけど。リリース後に自分の曲をかけるとか、ほかの人にかけてもらうとか、そこにあまり深くリンクさせてはいなかった。
 
——TSUYOSHIさんもよくかけてくれているそうで、レビューコメントをくださっていますよ。
 
TSUYOSHIくんのレビュー、読みました。すごく嬉しい。彼とは90年代からの友人でもあり尊敬する先輩でもあり同志でもあるから。96年くらいからだったかな。もっと前からだったかな。それこそトランスの黎明期から一緒に前に進んできた仲。

——ということは、まさしく2月にリリースされる「Early Tracks 1」の収録曲のころからの付き合いですね?
 
考えてみるとそうだね。お互い、長いね〜 (笑)。
 
 
DJ TSUYOSHIによるレビューコメント
 
Daydreaming
「のっけから、リーちゃん節のベースラインとキックで始まるところが、らしいなと思ったのですが、その後の徐々にビルドアップして行く感じがすごくうまいなと思いました。そして時々、Juno Reactorを思わせる妖しいシンセの浮遊感ある音がドンピシャなタイミングで入っていく、音の迷宮に入り込んでいく構成は、本当に圧巻ですね! 音のバランス、EQなどの細かいところも繊細に繊細に細かく、右に左に振らせて、自分はテクノセットも時々やるのですが、ヘビーローテーションになっています!」
 
Imeru
「この曲はどちらかと言うと、Daydreamingよりもコアなリーちゃんファンにウケそうな感じかな。キックの音とベースラインのフィルタリングかかったうねうねな感じが昔の90年代を彷彿させて、これも自分好みっすね!なんと言っても、グルーブを司るクラップのリバーブ感やドラムのフィルイン系が見事!サイケデリックで、テッキーで、これも自分のDJのヘビーローテーションになってます!」
 
 
[リリース情報]
DELTA 03/Daydreaming EP
アーティスト:Ree.K
レーベル:Liquid Drop Groove
Beatport
https://www.beatport.com/release/delta-03/2464928

Juno Download
https://www.junodownload.com/products/ree-k-delta-03/3990298-02/ Soundcloud

Soundcloud
https://soundcloud.com/liquiddropgroove/sets/delta-03
 
Early Tracks 1
アーティスト:Ree.K
レーベル:Hypnodisk / bluestract records
価格:2,000円(税別) 2019年2月6日(水)より全国のCDショップ(店舗・オンライン)にて発売開始 全国ツアー会場にて先行販売中
 
 
[イベント情報]
LDG & Hypnodisk Presents“Ree.K Release Edition”
開催日:1月18日(金)
会場:晴れたら空に豆まいて(代官山)
時間:24時
料金:2,500円
出演:Ree.K (Hypnodisk)、Miku(Global Ark) 、YUTA(LDG/Matsuri Digital Chill)

Liquid Drop Groove
https://www.liquiddropgroove.com