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グルーヴがテクノとハウスを分けるものになるんだ - Vince Watson -

 グラスゴー出身、現在オランダ在住。デトロイト・テクノのアーティスト / DJと位置付けられてはいるが、ニューヨーク・ハウス・フリークからも熱い支持を受けるVince Watson。機材を自由自在に操り、琴線に触れるメロディワークで90年代から幅広いリスナーを魅了し続けている。現在はRolandのアーティストとしても活躍し、今年もアムステルダムの「909 | festival」に出演。ダンス・ミュージックの変遷をリアルタイムで体験しながら、20年以上のキャリアを積み重ねてきた彼の中には明確な回答がある。過去と現在、ジャンルの境界、音楽における地域性、生活と音楽の相互関係、音楽産業の変化…それらの質問に迷いなく答える彼の明晰さは、キャリアをスタートさせてから現在まで一貫する音楽への姿勢と共通している。
 
 東京公演は渋谷Contactで6月21日、Dazzle Drumsが主催する〈Music Of Many Colours〉にてRolandがフルサポートするライブセットを行う。また22日名古屋MagoはPigeon RecordsのDJ Hattoriらが主催する〈Black Cream〉にて貴重なライブ・パフォーマンス披露する。
 
 
取材・文 : Nagi(Dazzle Drums)
 
 
――2017年にリリースした「Rhythim Is Rhythim – Icon / Kao-Tic Harmony  (Vince Watson Reconstructions)」は、Derrick Mayからをリメイクする依頼を受けたとのことですが、まずはそのエピソードから教えてください。
 
Derrickとはもう随分長い付き合いだよね。2014年ごろに「Kao-Tic Harmony」を自分のセットでプレイしたくて、ラフな曲のエディットを作ったんだけど…オリジナルはテープが切られていたから時間通りに確実にシーケンスされてなかったんだ。ご存知の通りあの曲にはキックが無いしね。それで彼にちょっと聴いてもらった。遊びで聴かせたつもりだったのに、DerrickとCarl(Craig)から数週間後に連絡が来て、「リミックスを作ってもいいよ」と言ってくれたんだ。だけど僕は断った。オリジナルが完璧すぎて、僕がそれを超えるような作品を作れるわけがないと思った。テープがカットされてた以外はね(笑)。真剣に悩んだあと、彼らに提案したのは、完全に僕のサウンドでリメイクすること。それを実現したのがこれなんだ。僕は「Icon」を先にリメイクすることにした。なぜならメロディがたくさんある曲だから、こっちをやる方が簡単だった。適切な形に仕上げるのに制作をやったりやらなかったりしながら2年ほど時間をかけたんだ。すごく大変な仕事だったよ。いままた新しい何かを準備中だよ。
 


――そのリメイク作業行程で生まれた素材が、あなたの新しいアルバム『DnA』が作られるきっかけになった、とのことですよね? このアルバムは、あなたの表現するデトロイトテクノの集合体だと思いますが、「デトロイトテクノ」を言葉でどうやって説明しますか?
 
それは言葉よりも音楽で表現する方が簡単だね。それはフィーリングなんだ、ディストピア / ユートピアの雰囲気にファンクを混ぜた感じだよ。生々しく、感情的で、魂から生まれるものなんだ。なかにはデトロイト産でないと認めない、という人もいるけれど、そんなことはない。音楽の歴史をわかっていれば、あなたはそれを音楽に反映することはできる。機材同士がセックスしているような感じだよ。


 
――あなたがテクノレーベルからリリースした楽曲の多くを、ハウスDJが好んでプレイしています。あなたにとって、ハウスとテクノの違いは何ですか?
 
その差はすべてグルーヴだよ。両方のジャンルは、同じBPMだったり、同じ音だったり、同じ影響を受けてるものだったりするけれど…グルーヴが「テクノ」と「ハウス」を分けるものになるんだ。僕の音楽はいろんなものが混ざっている…それは同時に幸でもあり不幸でもある。僕はひとつのジャンルの人間としてタグづけされるのが嫌いでね。ただ良い音楽が好きなだけだよ、良いか、悪いか、それだけだ。
 
――先日あなたはJoe ClaussellのレーベルCosmic Arts Music (a division of Sacred Rhythm Music) から新曲「Teardrops」をリリースしました。彼との交流はいつごろから、どのようにして始まったのでしょうか?
 
2001年ごろに「Mystical Rhythm」をNRKから出たJoeのミックスCD『Translate』にライセンスされたころから彼と交流があるんだ。何年か前に彼から連絡があって、彼のCosmic Artsというコミュニティースペースでワークショップをしないかと声をかけてもらった。で、2年前にそこに行ったとき、ブルックリンのロフトスペースで行われたGolden Record NYCというクルーのギグで予定外にJoeと一緒にギグをすることになったんだよね(2017年10月に開催)。もともと計画ではレーベルに提供する曲を作ってCosmic Artsでリリースパーティをしようと思ったんだけど、それはいろんな事情で実現できなくなって、でもトラックはほとんど完成していたから、それを彼に渡したかった。なぜならそれはとても変わっていて特別なものだったから。僕たちはこのCosmic Artsのプランでもうひとつのシングルを作る予定があるよ。
 



――「Teardrops」や、昨年BBEから別名義Quartでリリースしたアルバムは、あなたの娘さんが誕生したことからインスパイアされたそうですね。あなたの音楽表現があなたの人生の感動と密接に繋がっているのがとてもよく伝わります。美しいメロディは、日々の感動する出来事から沸き起こるものですか? それとも、努力から導かれるものだと思いますか?
 
それは陰と陽のシチュエーションなんだ…。両方向に機能して、相容れないもの。僕は音楽生活と非常に深く結びついてるから、個人的な生活のなかで起こることはすべて私の音楽の生活に影響を与える。それは深く根付いていて、そこから逃れることはできない、けれどもそれは罠ではなくて恵みなんだよ。
 
――あなたは影響を受けたアーティストとしてJean Michel Jarre Herbie Hancockの名前を挙げますし、お気に入りのレーベルを訊かれてDeutsche Grammophon(世界でもっとも長い歴史をもつドイツのクラシック専門レーベル)と答えています。あなたが多くの音楽形式の中からテクノそしてハウスを表現の主軸に選んだきっかけは何ですか?
 
僕たちのジェネレーションはテクノかハウスを選んだっていうよりも、テクノやハウスが俺たちを選んだ、という感じだよね。1980年代に目の前でそれらがバンバンと生まれて、僕の年齢層のほぼすべての人々に感染した、そんなことが起きている時代にいたんだ。でも僕が思うには、いまはエレクトロミュージックのスタイルがたくさんあるなかで、なぜ多くの人々がハウスとテクノを選ぶのか、という質問の方がいいんじゃないのかな。プロダクションのレベルでいうと、僕たちは最高の時代に生きているんだ。
 
――たしか、あなたは10代前半のころに初めて機材を手に入れて、それがRoland SH-101だったんですよね。あなたがとくに好んで使っていて、思い入れのあるRolandの機材を教えてください。
 
僕の現在のお気に入りは、自分でカスタマイズしたTR-8Sと私のSE-02。とはいえ僕まだSystem-8とSystem-1が大好きだけどね。 Integra-7、これもいまも変わらず最高。長年僕のスタジオにはたくさんのRoland機材、実際にはそのほとんどがうちにあるよ。現在の僕のスタジオは、新しいスタジオを作っているので倉庫みたいになってる。僕のTR808、909、SH-101そしてJuno、全部バブルラップで梱包して置いてある、ちょっと悲しいんだけど。ちなみに住所は……なんてね(笑)。
 
――Rolandはダンスミュージックにどのような影響を与えたと思いますか?
 
根源的なもの。これに勝るものはないんだ。
 
――ダンスミュージックを作る手段として、既存の音楽をサンプリングしたものを主軸にトラックを作る場合と、あなたのようにコードとメロディを自分で創造する場合と、大雑把に2つのタイプに分かれるかと思います。あなたが後者の方法を選んだのは何故ですか?
 
何もないところから何かを創り出すということは、僕にとっては自然な表現行為なんだ。僕の考えでは、それは簡単ではなく時間もかかるけれど、想いが報われる喜びをもっと得られると思う。もしあなたが100%新しいものを作るなら、それだけの満足感を得られる。あなたがほかの誰かの音を使う場合は、その分あなたの報われる感覚は失われる。サンプルを使って製作することは素晴らしいことだと思うけど、それが自分の音楽のサンプルを使用して作るとしたら、もっと最高だよね。
 
 
僕は絶対的にBandcampを支持している、これは啓示なんだよ。すべてのファンと直接コミュニケーションできることが重要なんだ。
 
――あなたは20年以上プロフェッショナルとして音楽活動をしてきましたが、あなたからみて、ダンスミュージック業界はこの20年間でどのように変化したと思いますか?
 
以前は音楽だけやればよかったんだ。でも今は残念なことに、あなたがどれだけお金を持っているかで状況が変わってくる。それは音楽についてだけではないけれど、ソーシャルネットワークでの宣伝に投資するだけのお金を準備できているかどうか、ということなんだ。でも、音楽自体が悪かったらうまくはいかないけどね。まずはどんな人にも買ってもらうための素晴らしいストーリーを持つことが必要で、それからファンにそれができるだけ届くように最善を尽くすんだ。いまやあなたの隣にいるアーティストはほとんど違いが無くなって、ツアーを飛び回るトップアーティストの一員にもなることだってできる。そして足を引っ張られるような危険を冒したくないから、独特なアイデンティティは減っていくようになる。そんな組織的な商業世界で僕たちは立ち往生してるんだ。音楽そのものは二の次なんだよ。
 
――MP3 の登場から現在に至るまで、人々が音楽を聴く環境は多種多様になりました。今でもレコードを選ぶ人もいれば、YouTubeやSoundcloudを携帯で聴くことで満足している人々もいます。音質の良し悪しについて、多くの人々が意識しなくなったように思います。このような変化を見て、あなたはどう感じますか?
 
僕たちは全員が進化しなければならなかった、さもなければ今この音楽の世界で生き残れないだろうね。全般的に2019年現在は、アルバムよりもEPをリリースするための作業に沿って進められてる。ほとんどのプラットフォームには「聴こえる」オーディオがあり、ほぼ音楽の品質を損なうことはない。そしてその状況は時が経っていくほど悪くなっている。僕は絶対的にBandcampを支持している、これは啓示なんだよ。すべてのファンと直接コミュニケーションできることが重要なんだ。
 
――マーケティングを意識して作られたポップソングで満足している人々が、アンダーグラウンドではあるけれども私たちが愛し続けているダンス・ミュージックに注目するためには、どんな要素が必要だと思いますか?
 
僕は、アンダーグラウンドそしてさほどコマーシャルではないアーティストが、現在ほどエレクトロニックミュージックにおいて重要であり責任ある時期を過ごしたことがないと思ってるんだ。 僕たちはどうにかバランスをとって、トレンドを追いかけたりクールにするわけでもなく、本当のストーリーで自分自身を表現するために次世代をインスパイアしていかなくちゃならない。 僕たちは現在において最も重要な要素なんだよ。
 
――あまりにも多くのアーティストが膨大な楽曲をリリースする現在、あなたはどうやってお気に入りのダンスミュージックの新曲を見つけますか? 
 
僕は週に約300のプロモ音源を受け取っているけど、それらをすべてをチェックするのは不可能だよね。でも、どのレーベルが自分にとって価値があるのか、そしてどのレーベルが好ましくないものを送っているのかをチェックすることには慣れている。だから聴けるのは週に50〜100曲前後になるかな。その後にJunoとTraxsourceを聴くよ。ほとんどのトップDJが結局は同じトラックをチョイスしてしまう状況を考えると、かなり皮肉で奇妙だと思わない?
 
――初めて日本に来た時のことを覚えていますか? それはいつで、その当時の日本のシーンにどのような印象を持ちましたか?
 
僕は今でもよく覚えているよ。1999年だった。YellowでDJしたんだよね、その素晴らしいサウンドシステムはこれまでプレイしたなかでも最高のもののひとつだといまでも思っている。でも、日本で僕が心を打たれたのは尊敬の念だった。それには多くの理由があることは知ってるけど、外から来た人間にとってはスピリチュアルな清々しい感覚だったんだよね。僕が最初に渋谷スクランブル交差点を訪れた時はハチ公口を使ったんだけど、あの壁から反射する騒音と雰囲気は僕のなかに永遠に生き続けてる。だからみんなに、初めて東京に行くときはハチ公口で降りるようにと伝えてるんだ。あとは食べ物…シスコ(当時あったテクノやハウスを中心に扱うレコード店)…あとは…。
 
――あなたは今アムステルダムに住んでいます。アムステルダム同様、東京にも多くのレコード店があり、幅広いダンスミュージックが支持され、キャリアの長いDJもたくさんいます。東京がアムステルダムのように、世界から注目される音楽的な街になるためには、これからどうしたらいいと思いますか?
 
アムステルダムには現在はレコード店が多いわけではないけれど、残っている幾つかのレコード店は良いよ。アムステルダムは長い間ベルリンのようなハブであり、両方の都市はエレクトロニックミュージックのなかで最も重要な二つとして並んで存在している。それとは違って東京はテクノとハウスがすごく過熱した時代があった都市だ。それは芸術復興だったけど、それから再び衰退し始めた。今、東京をホットスポットにしようという新たな試みがあるよね。うまくいけば、以前の状態に戻すことができるけれど…これらのことは循環的なことなんだ。きっとできるさ。僕が今月プレイすることが少しでもその手助けになれたら、と思っているよ。
 
 
 
来日公演情報
 
Music Of Many Colours @ 東京 Contact
開催日:6月21日(金)
時間:開場 22:00
料金:¥1000 Before 11PM, Under 23, Student / ¥2500 GH S Members / ¥3000 with Flyer / ¥3000 FB Discount / ¥3500 Door
https://clubberia.com/ja/events/285858-Music-Of-Many-Colours-with-Vince-Watson-sauce81-supported-by-Roland/
 
Brack Cream @ 名古屋 Mago
開催日:6月22日(土)
時間:開場 23:00
料金:WF: 2500 DOOR: 3000
https://clubberia.com/ja/events/286470/