「Gangst(ギャングスタ)」と聞くと、映画にもよく出てくるギャングと連想するのが一般的だが、ネイティブの間では「That's gangsta!」などと称賛の意味を込めて使う場合もある。
アメリカでは、国民の5人に1人が精神疾患を抱えているといわれている。その中でとりわけ多くの割合を占めている黒人が、治療機関へ通わないというアンバランスな現実がある。その一因としてヒップホップカルチャーが、それら精神疾患やセラピーに対して「ダサい、弱々しい」「ギャングスタ―なら一人ですべて乗り越えろ」という共通認識を持っていたことが、大きな影響を与えているといわれていた。
例えば、ニューヨーク・クイーンズを代表するハードコア・ラップデュオMobb DeepのProdigyは、今まで精神科医にかかったり、セラピーを受けたことがあるか? という問いに対して「ヒップホップこそが自分にとってのセラピーだ。自分のやってきた経験はドクターのアドバイスより、ずっと価値がある」と答えた。これと同じような考えを、EminemからIce Cube まで多くのラッパーたちが主張してきた。「自分にとっての一番のセラピストは自分」とカンザスシティ出身のラッパーTech N9neも語っていた。
それが、昨今、Jay-zをはじめとするさまざまな大物アーティストたちの、セラピーに対する姿勢の変化により、ポジティブな方向へ状況が変化している現実がある。
例えば2017年前半には、先出のProdigyが窒息死の事故で亡くなる直前に、VICEの関連メディアVicelandの「The Therapist」という番組に出演してセラピーを受けている。この番組には他にもChief Keef、Freddie Gibbs、Waka Flocka, and Young M.A といったラッパーたちも出演している。約20年もの間、ラッパーたちの音楽やリリックは、多くの人へ「セラピー」として機能してきたが、やっとここにきて、ラッパーたち自身がセラピーに癒される時代がきた。ラッパーたちが声を大にすれば、ファンたちも耳を傾ける。そうやって、セラピーがポジティブに受け入れられる方向へ、時代は動いている。ヒップホップカルチャーの持つメッセージが、アメリカ社会へ与える影響がいかに強いかを指し示す、いい例ではないであろうか。
■参考サイト
https://pitchfork.com/thepitch/therapy-is-gangsta-hip-hops-views-on-mental-health-are-evolving/
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