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AbletonがLive 11を発表!刺激的な数々の新機能をAbleton認定トレーナーのKoyasが紹介

文・写真:Koyas
 
 クラブでかかっている曲の半分はこのソフトウェアで作られているといっても過言ではない、音楽制作ソフトウェア=Ableton Liveのバージョン11がアナウンスされた。発売は2021年春の予定で、現在ベータ版(開発途中のバージョン)を公開している。Liveはドラッグ&ドロップを主体とした簡単な操作性と、線や丸を多用したシンプルで視認性の高いデザインが特徴だ。
このLive 11の新機能は数多く、全部を紹介するとあまりに長くなるため、主要なポイントを紹介していこう。なお、この記事はベータ版を元に書いているため、製品版では変更になる可能性があることに注意していただきたい。


コンピング機能を搭載して録音/編集機能がパワーアップ
コンピングしたトラックを展開したところ。一番上が録音したトラック/2番目以降はテイクレーン

 Live 11では、録音や編集に関する機能が強化されている。なかでも、Live 11の新機能で目を引くのはコンピング機能の搭載で、「Ableton Liveのここが不満」ランキングがあるとすれば、トップになるのはコンピングが無いことだといえるほどユーザーの要望が多かった。
これは1つのトラックの中にオーディオやMIDIの録音したテイクを複数ためて、最初の4小節はテイク1を使って、そのあとはテイク2を使う…といった具合に、テイクの中からいいところをつなぎ合わせることができる。ボーカルや楽器の演奏を録音するときに、コンピングはとても役に立つ機能だ。
いいテイク同士をつなぎ合わせるだけならコンピングの普通の使い方だが、Live 11の面白いところは「普通じゃない使い方」もできるところ。例えば、録音しないでテイクレーンにオーディオファイルを並べて、細かく切り刻むようなエディットができる。また、オーディオやMIDIだけでなく、動画ファイルまでコンピングできるので、1拍ごとにカットが変わるような動画をLive上で作ることもできる。こうした「普通じゃない使い方」ができる新機能があるのもLive 11の魅力だ。


MPE対応をはじめMIDIの機能が充実
Live 11に搭載されたエクスプレッションレーン。画面右側のピアノロールで音程を変化させ、下部のPressureで1音だけ音色を変化させている
 
 LiveのMIDIはシンプルで使いやすいが、機能が少ないという意見がある。どうやらそれもLive 11で変わっていきそうだ。Live 11では、最近生まれたMIDIの規格”MPE”に対応した。MPEとは”MIDI Polyphonic Expression”の略で、例えば3和音のメジャーコードを押さえたまま、そのうちの1音だけゆっくり音程を変えて別のコードに変化させたり、1音だけフィルターを開閉させることができる。Liveでは内蔵のWavetable/Simpler/SamplerがMPEに対応している。
ROLI Seaboardなど「指先1本で多次元コントロール」できるようなMPE対応コントローラーがあれば、指の押さえる力やスライドさせる方向などによって、シンセサイザーのコードを1音ごと別々に変えていくことができる。また、MPE対応のコントローラーをもっていなくても、Live 11に搭載されたエクスプレッションレーンから、和音を1音ごとに別々の変化をさせるエディットが可能だ。
この機能は言葉にするとわかりづらいが、実際にデモしているところをみると、シンセサイザーの未来を感じることだろう。店頭や動画でその真価をチェックして欲しい。

 
画面右下の丸が発音する確率を表すプロバビリティー

 また、MIDI関連では、発音する確率を制御する”Probability”機能も追加された。同じMIDIデータを繰り返し再生させても、全く同じフレーズにならないので、ループを多用するジャンルでは強力な機能だ。
さらに、弾く強さを表すベロシティーも、設定した範囲内でランダマイズできるようになり、プロバビリティーと組み合わせると、単なる繰り返しではない有機的なループが作れるようになる。MIDIの新機能はこの他にもあり、Live 11でもっとも手が入った部分といえる。


ユニークなオーディオエフェクトを新規搭載


 Live 11では、新たにオーディオエフェクトが3種類追加され、古くからあるエフェクトもアップデートされている。新規に追加されたオーディオエフェクトは、リバーブの”Hybrid Reverb”、エクスペリメンタルなディレイの”Spectral Time”、ピッチシフトの”Spectral Resonator”の3つ。
Hybrid Reverbは、実際の空間を測定したデータからリバーブを作る”コンボリューションリバーブ”と、アルゴリズムの計算から反響音を作る”アルゴリズミックリバーブ”の2つをブレンドさせて使う。実際に使ってみると、普通のリバーブから変態的なリバーブまで幅広い用途に使えるようになっていて、いままでのLive内蔵のReverbは普通のリバーブだっただけに、これからはこのHybrid ReverbがLiveの定番になるだろう。

 
Spectral Timeは左下にあるFreezeボタンが過激なサウンドの加工を可能にする

 ディレイの”Spectral Time”と、ピッチシフトの”Spectral Resonator”は、動作原理が似ていて、入力された音声を周波数ごとに細かく分割してエフェクト処理をする。Spectral Timeはディレイ音にこの処理をすることで、アンビエントやサウンドスケープ向きの複雑な響きを作ることができる。一方Spectral Resonatorはピッチシフトだけなく音の長さを引き延ばせて、外部のMIDI信号を受けることでボコーダーのような使い方もできる。どちらも普通のエフェクトではなく、原音からかけ離れた過激な加工ができるエフェクトだ。



 Live 11の最上位版であるSuiteには、Monolakeとして知られるRobert Henkeが作ったオーディオエフェクト”PitchLoop89”が付属する。このエフェクトは入力された音声をループさせて、ループする位置/長さや、再生する速度を変えるエフェクトだが、実際に使っている所をみるとテクノらしくて面白いエフェクト。アメリカのJames Patrickによるデモ動画が秀逸だ。



 その他にもアップデートされたオーディオエフェクトもあるので、より詳しく知りたい方は、Ableton Meetup Tokyoのwebサイトの解説を参考していただきたい。


パフォーマンス向けの機能もアップデート
画面中央から左側がマクロコントロールで、画面左端がそのツマミの位置を記録するスナップショット

 Liveでライブ・パフォーマンスをしている方に向けた機能も強化された。なかでも強力なのは、マクロコントロールのアップデートだろう。マクロコントロールとは、Liveのエフェクトやインストゥルメントをグループ化させ、そのパラメーターを横断的にコントロールする機能のことである。この機能はLiveのプリセットにも使われていて、対応しているMIDIコントローラーなら自動的にマクロコントロールがツマミに割り振られるので、知らないうちに使っている方も多いだろう。
Live 11ではこのマクロコントロールが1個から16個まで任意の数に作成できるようになり、そのツマミの位置をスナップショットとして記録/リコール/ランダマイズできるようになった。シチュエーションに応じてローカットさせたり、元に戻したりといった操作がボタン1発で行えるようになる便利な機能だ。


 また、現場での即興セッションに使えそうな”テンポフォロワー”も搭載された。これは外部から入力された音声のテンポを解析して、Liveのテンポを追随させる機能で、DJやバンドとのセッションが楽しくなるだろう。
この他にも、Live 11ではライブを行う方がよく使うフォローアクションや、CPUの負荷を示すメーターなど細かいところまで手が入っている。付属するサウンドライブラリーも新規追加やアップデートされる予定だが、現時点のベータ版にはほとんど実装されていない。Ableton Meetup Tokyoのwebサイトでも引き続き新機能を紹介していくので、詳しく知りたい方は引き続きチェックして頂きたい。

 ここまでLive 11を紹介してきたが、Live 1が誕生したのは2001年。Live 11の製品版が登場する2021年は、デビュー20周年にあたる節目の年だけあってこれから先のAbleton Liveを見据えたアップデートに仕上がっている。Live 10の時は「便利そう」と思わせる新機能が多かったが、Live 11は「これ使って何をしようか」と刺激を与えるような仕上がりだ。
最後に、11/23(月・祝)午後2時から、Ableton Meetup TokyoがこのLive 11をデモするプログラムを配信する。筆者がLive 11を使ったプレゼンテーションを行い、Live 11に関するQ&Aの時間も設ける。視聴は無料なので、興味のある方は是非ご覧頂きたい。




Ableton Meetup Tokyo Vol.34 Live 11 Coming Up
On Air
: 2020/11/23 14:00-15:00 (JST)
出演:Koyas (Ableton認定トレーナー), DIEZONERADIO (SUNNY/BLACKSHIP)
配信URLhttps://youtu.be/E7g1w_BaZSE
詳細https://ableton-meetup.tokyo/news/2020/11/12/2007/