NEWS

森が奏でる交響曲―坂本龍一+YCAM《Forest Symphony》が山口・常栄寺で再展示

音楽と自然、テクノロジーが交錯するサウンド・インスタレーション《Forest Symphony》が、2025年も山口で再展示される。坂本龍一と山口情報芸術センター(YCAM)が共同制作したこの作品は、「Yamaguchi Seasonal」シリーズの一環として、2025年8月8日(金)から11月30日(日)まで、国の史跡・名勝である常栄寺雪舟庭を舞台に公開される。


撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

《Forest Symphony》とは―震災を契機に始まったプロジェクト

《Forest Symphony》は、2011年の東日本大震災をきっかけに、坂本龍一が自然環境、とりわけ森林の役割に着目し、「人と自然の関係性」に耳を傾けるために構想されたプロジェクト。YCAM InterLabとの協働によって、2013年にサウンドインスタレーションおよびウェブコンテンツとして初めて発表された。坂本はこのプロジェクトの着想について、「木は光合成によって太陽光をエネルギーに換える、つまり電磁波をとらえる天才。その周期性を音楽にしてみたい」と語っている。自然が持つ生命活動のリズムを、音というかたちで可視化/可聴化することを目指した本作は、芸術表現と環境意識を融合させた試みとなっている。

この作品では、YCAMが独自に開発したセンサーデバイスを世界各地の樹木に取り付け、樹木の生体電位をリアルタイムで収集。これらのデータを基にサウンドが生成され、空間に広がる音として再構成される。会場となる常栄寺雪舟庭は、室町時代の画僧・雪舟が作庭したとされる枯山水庭園であり、国の史跡および名勝にも指定されている。その自然美と歴史的風格が、作品に込められた自然へのまなざしと調和し、訪れる者に静けさと深い没入感をもたらす空間となっている。

YCAM InterLabによる技術的アプローチとオープンソース化

本作における技術的要素の中核には、YCAM InterLabが開発した植物の生体電位測定デバイスと、独自設計のオーディオ・アンプがある。特にセンサーデバイスには、オープンソースのマイクロコントローラーであるArduino(アルドゥイーノ)を活用し、樹木の微細な電位変化を捉えるシステムが構築されている。Arduinoをベースとしたこのデバイスは、電極から得られたアナログ信号をデジタルに変換し、無線通信を用いてサーバーへと送信される。この仕組みにより、遠隔地にある複数の樹木のデータを同時に取得し、リアルタイムで音として再構成することが可能となっている。また、これらの技術情報はYCAMのウェブサイト上で一般公開されており、回路図、ソースコード、設計仕様などを誰でも閲覧・再利用できる。YCAMの「オープン・リサーチ・プロジェクト」として、教育機関やアーティスト、研究者による応用も期待されている。展示空間で使用されるオーディオ・アンプも、自然環境の静寂に溶け込む繊細な音を再生するために特別に設計されたものであり、空間全体の調和と鑑賞体験の質を高めている。

YCAMのオープンソース技術を用いた作品の例として「Other Voices, Other Rooms by Shingo Sasahara」「Tele-Flow」などがYCAMのサイト内で挙げられている。

環境と芸術の交差点として

《Forest Symphony》は、音楽作品でありながら、自然科学、メディアアート、教育、文化保存といった複数の領域を横断する、学際的なアートプロジェクトである。その根底には、「自然は単なる背景ではなく、能動的なパートナーである」という思想があり、樹木の生体反応が空間全体の音楽的現象を構成する。

イベント概要
  • 会期:2025年8月8日(金)~11月30日(日)
  • 時間:10:00~16:30
  • 会場:常栄寺(山口県山口市宮野下2001-1)
  • 入場無料(ただし拝観料が別途必要)
  • 休館日:火曜日(祝日の場合は翌日)、8月11日、9月24日、11月2~3日

主催:山口市、公益財団法人山口市文化振興財団
助成:文化庁 文化芸術創造拠点形成事業
企画制作:山口情報芸術センター[YCAM]
協力:KAB Inc.、dumb type office
関連サイト:
山口情報芸術センター[YCAM], YCAM InterLab

時間、音、そして自然。その交点で生まれる《Forest Symphony》の響きに、この夏、ぜひ耳を澄ませてみてほしい。