世界中のDJに愛用されていたTechnicsブランドのターンテーブル「SL-1200」シリーズ。その最新モデルが「CES 2016」に合わせてアメリカ・ラスベガスで開催されたパナソニックのプレス・カンファンレンスで発表された。今回発表されたのは、Technicsブランド50周年の記念モデルとして高品位なパーツを使用し1200台限定生産される「SL-1200GAE」と通常モデルの「SL-1200G」。発表と同時に多くのメディアが取り上げ、SNSを通じ大きな話題となったTechnicsのターンテーブル。では、これまでと何が変わったのか? 実際にSL-1200GAEを見ながらTechnicsのチーフエンジニアの井谷哲也氏、商品企画課の伊藤茂樹氏、法人戦略企画課の上松泰直氏に話を聞いた。(写真は左から伊藤茂樹氏、上松泰直氏、井谷哲也氏)
取材・文:yanma(clubberia)
写真:難波里美(clubberia)
――まずTechnicsの復活は、いつぐらいから話があったのでしょうか?
復活宣言をした2014年9月の1年ぐらい前ぐらいから復活プロジェクトを開始しました。それは、“SL-1200を”というより“高級オーディオを”もう一度復活させましょうというようなプロジェクトでした。2010年のブランド休止以降、SL-1200はいわゆるクラブやDJ用途でずっとご愛用され続けてきましたので、当然我々としては、お客様からSL-1200の復活に対するご要望の声をたくさん頂くだろうなということを予測しつつも、まずは“高級オーディオを”復活させるという思いで動き出しました。
――2015年9月に発表したプロトタイプと今回発表されたデザインは大きく違いましたがそれはなぜですか?
プロトタイプは技術開発が中心だったため、敢えてデザインをしなかった意図がありました。最初から目指していたものはSL-1200のような形状でしたが。
――SL-1200の復活にあたり目標は何でしたか?
“伝統の音響テクノロジー”と“先進のデジタル技術”を融合させ「ダイレクト・ドライブを再定義する」との思いで開発しました。なので、モーター、プラッター、インシュレーター、トーンアーム、筐体など、全部作り直しています。作り直さなかったのはカバーだけですね(笑)。SL-1200の形をしていますけど“まったく違うもの”というイメージをしていただいた方がいいと思います。
――筐体の重さは18キロと前モデルのSL-1200 MK6の11.7キロと較べてもかなり重くなっていますね。
例えば回転するプラッター部分。これの黄金部分の素材は真鍮でできています。以前のモデルより、プラッターだけで重さは倍以上になります。重くすると慣性が大きくなるので安定して回るんです。その証拠に回転中に電源を切っても、これまでとは比べ物にならないくらいずっと回り続けるんです。今市場ではダイレクト・ドライブっていうものはDJに使われるモーターです。ハイファイ用はむしろベルト・ドライブです。しかし、もともとSL-1200というのは、DJ用としてではなくハイファイ向けに作られました。ダイレクト・ドライブというのは、1970年にSP-10という単体のターンテーブルで我々が世界で初めて商品化しました。最初はハイファイユーザーに使われ、それから世界中の放送局で使われ、最後に使って頂いたのがDJでした。私たちは今回新しくダイレクト・ドライブでターンテーブルを作るにあたり、これまでのDJ=ダイレクト・ドライブ、ハイファイ=ベルト・ドライブのような概念とは違って“DJもハイファイもないだろう。本来両方ともカバーできるだろう”と思い、再定義しました。
――では、モーターの特徴は?
SL-1200 MK6のモーターはモーターの中央に付いている鉄心と、プラッターの裏側ある磁石と引き合って回転していました。ただ、この方法ですと効率はいいけれど、磁力の強い部分と弱い部分が存在して、回転が滑らかじゃなくなるんです。なので、鉄心を取り、磁力の強いところ弱いところをなくし、非常に回転の滑らかなモーターを作りました。鉄心の効率を補うためモーター側にも磁石を配置することにより、重くなったプラッターでも回せるようにしましたし、立ち上がり時間でいうとSL-1200と同等です。また、回転の位置を0.3度の精度で検出できるセンサーを部品に使用し、回転ムラを補正するようにもなりました。DJの方に使っていただくことは当然考えていますので、スイッチ類の配置は従前のSL-1200MK6をそのまま引き継いでいますが、今の技術にすべて置き換えて精度を上げているので、性能的にはハイファイのお客様にも満足いただけるような高安定性なものになっています。
――SL-1200MK6のインシュレーター(筐体を支える脚)はプラスチックとゴムでしが、今回は金属になっていますね。
インシュレーターに使用している金属は亜鉛で中にシリコンを巻いてあります。これだけでも音が変わります。これまではインシュレーターが鳴くというか…音にキャラクターを付けるような感じでしたけど、今回はキャラクターが出ないようにしています。ターンテーブルはスピーカーから出た音も振動としてピックアップしてしまうので、うまく吸収しないと音的にはよくなりません。
――トーンアーム部分も以前に比べしっかりした印象です。
今までのものより肉厚になっています。レコードに刻まれた繊細な溝をより正確に読み取ることができるようになり高音質になっています。今回のデザインはシルバーで統一しています。天板も10ミリのアルミを使用しています。アルミを使用したのは、Technicsのハイファイオーディオ機器とデザインとしての統一感をもたせました。
――そのほか変わった部分はありますか?
33回転、45回転を2つ押しすると78回転にもなります。過去にSL-1200MK4というハイファイ用のモデルでも78回転に対応していたのですが、その時は3つのボタンで実現していました。ピッチコントローラーもアナログからデジタル制御になったので正確です。以前は、同じレコードを使って同じ数値にしてもずれることがあったので。あとハイファイ用のマットを使っています。
――SL-1200GAEとSL-1200Gは、どこが変わりますか?
SL-1200GAEとSL-1200Gの性能は基本的に同等です。なので同価格を予定しています。違う点として50周年記念モデルであるSL-1200GAEは、トーンアームにマグネシウムを使用するなど(Gのトーンアームはアルミニウム)一部高品位なパーツを採用するとともに、本体天面にシリアルナンバープレートが付きます。アメリカではSL-1200GAEを2016年の夏頃に発売し、価格は約4,000ドルの予定ですが、日本での具体的な発売時期や価格は鋭意検討中なので、続報を楽しみにしていてください。
■Technics(US)
http://www.technics.com/us/
■Technics(JP)
http://jp.technics.com/
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