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ダンスミュージックの枠を超えて。「ULTRA」が僕らの未来を変えてくれる可能性 – 後編 –

 ダンスミュージックで約12万もの人を集めるフェスティバルが9月17日(土)、18日(日)19日(月・祝)に東京・お台場で開催されようとしている。2014年に日本で初開催され、この年は2日間で約4万2千人の来場者を記録。そして2015年には3日間に拡大し9万人を動員。今年も昨年同様チケットは完売。昨年より33%も来場者数が増加する予定だ。そのフェスの名は「ULTRA JAPAN」。これまで開催されてきたダンスミュージックのフェスティバルは多くても約2万人規模だったのを考えると、とんでもないことがシーンで起こった、と言うほかない。
 今回のインタビューは「ULTRA JAPAN」のクリエイティブディレクター、小橋賢児に取材したもの。初開催までの経緯や意義など、彼から見る「ULTRA JAPAN」について話してもらった。
 また定額制配信サイトAWAを使い、「ULTRA JAPAN 2016」に出演するアーティストの楽曲でプレイリストでクラベリア編集部で作成。視聴しながら記事を読むもよし、読み終えた後に視聴するもよし、プレイリストも記事も、ぜひチェックしてみてほしい。

Photo:山崎瑠惟、© ULTRA JAPAN

「ULTRA JAPAN 2016」RESISTANCEステージ出演アーティストの楽曲をAWAで視聴する
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プロフェッショナルが一丸となって出来上がる総合芸術、それが「ULTRA JAPAN」
 

——日本での初開催はいかがでしたか? 
本当に首の皮一枚つながった状態でやっていました。なんとか初日は迎えたがこのままでは2日目の開催ができないんじゃないかとか、いろいろなことを考えてハラハラしていました。でも結果として来てくれたお客さんたちを見て、いろいろなタイプの人が来てくれていたんだなと思いました。どう踊ってどう遊んでいいか分からない初々しい人もたくさんいたし、泣いて感動してくれている人まで。“想像すらできなかったモノが目の前で行われ、そこには自分がいる。これ、本当にリアルなの?”と衝撃を受けてくれてたんだなと思いました。

——わたしも「ULTRA」のスケールにあっけにとられた一人です。
以前、ぼくもFatboy Slimがイギリスのブライトンビーチで開催したフェス「BIG BEACH FESTIVAL」の映像を観たときに「すげえ!」と思ったのを思い出しました。

——「ULTRA」ならではの魅力って何だと思いますか?
「都市型」だから観光も一緒に楽しむことができる。規模で言ったら「EDC」や「TOMMOROWLAND」の方が大きいですが、都市開催ではないですよね。「ULTRA MUSIC FESTIVAL」を例に出すと、マイアミの街中で開催されるので、昼間はサウスビーチで楽しんで、その後フェスに行って、夜はもう1回ドレスアップして街に出かける。女性だったら特にですが、1日に2度、3度楽しめるというのは、都市型ならではです。東京で開催している「ULTRA JAPAN」も然りです。

——確かに。では内容に関してはいかがでしょうか?
ほかのフェスが舞台装飾にこだわっているのに対し、「ULTRA」は映像に特化していることですね。「ULTRA」ってほぼLEDでステージを作っています。今のDJに求められているものは、音楽プロデューサーであり、DJを超えたDJのショーエンターテインメントのパッケージじゃないですか。特効、映像、照明も揃ってこそのショーエンターテインメントを魅せられる場。それが「ULTRA」なんです。

——小橋さんは、以前俳優をやられていたじゃないですか? 映画って俳優、監督、音楽、脚本などなどスペシャリストの集団が作る総合芸術のひとつだと思うんですよ。「ULTRA」も各スペシャリストが作る総合芸術ひとつなのかなと思いました。その共通点があるから、今やられているのかなと感じました。
ありがとうございます(笑)。「なぜこれに惹かれてるんだろう」、「なぜこれを伝えたいんだろう」と自分の感覚の理由を思い返してみると、『プロフェッショナルたちが一丸となり創り上がる結晶』に魅力を感じているからだと思います。Skrillexも言っていましたが、「自分はDJという役割をやっているだけでSkrillexとはチームであり、プロダクションなんだ。そのショーエンターテインメントをチームでやっているんだ」と。彼はずっと映像にもこだわっているし、映像がDJよりも主体になっている時もあるんですよね。ちょっと個人的な話をしていいですか?
 
メインのロゴを壊してまでみせる反抗心
RESISTANCEステージ誕生の話

 

——はい、どうぞ。
いろんなフェスがありますが、「ULTRA」はどこの資本にも買われていないファミリービジネスでやっています。「SFX」にも買われていないし、どこにも属してないんですよ。20歳の時から自分たちで作ってきて、今は世界中に広がっている。「ULTRA」はおそらく世界で一番成功しているフェスだと思います。なぜ成功しているのかを紐解いてみたら、各国の「ULTRA」のボスは常に世界中で開催されている「ULTRA」に行き、そして毎日みんなでファミリーディナーをするんです。そのディナーでブッキングを決めたり、ブランディングを決めたり。今でも手作りでやっているんです。誰かに任せてほったらかしにしたり、マネーゲームのために勝手にライセンスアウトしたりしません。本当にみんな血が通っている。みんなで共有しながら、怒られながら、いじられながら、煽られながら、そこでいつも戦いながらやってる。規模でいったらほかに大きいフェスはありますが、一番血が通ってるフェスは「ULTRA」じゃないかなと思っています。

——中心にいる人じゃないと分からない、貴重な情報ありがとうございます。
去年、DJ MAGのフェス部門で1位になりました。集客でいったらもっと集めたフェスとか、ド派手な演出のフェスとかあるんですけど、シンプルだけど地に足が付いていて、さらに毎年どこかを変えていっている。ある意味で世の中の音楽とかシステムの流れを変えていってるのは「ULTRA MUSIC FESTIVAL」だし、代表的なものが「RESISTANCE」ステージを作ったことだと思います。

——「RESISTANCE」ができたのは、本国は昨年からですか?
そうですね。

——「RESISTANCE」ができた背景には何がありますか?
ボスは、もともとアンダーグラウンドの音が大好きなんです。「ULTRA」はEDMのフェスをやっているわけではありません。もともとはロックとかヒップホップとかのように、ダンスミュージックシーンを包括する言葉だったのが、インターネットのスピードってものすごく速いから、おそらく歴史を知らずにEDMっていう言葉ばかりが先走ってしまって…。今から3~4年前にEDMっていう言葉が流行ったとき、メインストリームの音はいわゆるビッグルームのような音だったじゃないですか? 「ULTRA」がEDMを押していたわけではないですけど、メインストリームの音が一番広いステージにいくのは当たり前だと思います。それは時代の人気などによって変わるわけですよね。それがEDMが一気に広まった時代と重なったことによって、「ULTRA」= 「EDM」のような印象がついた。ボスには、流行っているものをやっているみたいなことに違和感もあったと思います。あと、EDMブームから入ってきた人がEDMだけをダンスミュージックだと思ってしまうのにも違和感があったからこそ、敢えて「ULTRA」のロゴをぶっ壊したんです。

——ロゴを自ら壊すデザインをするなんてないですよね。
メインのロゴを壊してまでみせる反抗心みたいなものをブランディングとして打ち出した。それって、ある意味シーンを牽引してきたからこそ、チャレンジできたんだと思います。常にカウンターカルチャーで、常に新しいものを提案していくということが、ミュージックフェスティバルをやっている側の精神にあると思うので。流行っているものをずっとやっていこうというよりかは、自分たちが生んでいるという自負があります。時代が台頭したら「RESISTANCE」の音楽がメインステージに来るわけじゃないですか? そうやって変わっていくものなので、今の皆さんが思うEDMというがずっとメインステージにあるわけではないと思っています。
 
——「RESISTANCE」の日本側のブッキングっていうのは何か選定基準みたいなものはあるのでしょうか?

一番は『スタイルを持っている人』ということですね。集客力のある人というのも大事ですが、やはり音にこだわってやっているので。「ULTRA」って巨大なメディアでもあるので若出演者には「ULTRA」をステップに世界に出て行ってほしいです。それこそ「ULTRA MUSIC FESTIVAL」を通じてAviciiとかMartin Garrixとか、Hardwellとかがスターになっていったように。

——本国はブッキングに関与していますか?
そうですね。国内外に関わらず出演者を提案し、すべてにチェックが入ります。

——今年の「ULTRA JAPAN」の「RESISTANCE」で個人的に楽しみなのは誰ですか?
石野卓球さんですね。というか卓球さんに出ていただけると思っていなかったので(笑)。あとは「WIRE」で来そうなメンバーも出演するので楽しみです。

——Dubfire、Technasiaは特に「WIRE」のイメージがありますね。
それにKen Ishiiさんもですよね。「WIRE」ってテクノ好きのためのフェスですよね。でも「ULTRA」のオーディエンスはいろいろな人がいるますし、もしかしたら世代的にテクノをまったく知らない人も来るかもしれない。そういう人たちに、音楽でどういう挨拶をするんだろう? 当たり前のように知られている世界でやる音楽と、全然知られていないところでやる音楽は、違うチャレンジがあると思うので今から楽しみにしています。

——去年のメインステージでのEMMAさんの出演も「RESISTANCE」のイメージに近いですか?
そうですね。もちろんチーム全体で決めていることですが、いろんな意味でのチャレンジってあると思うんですよ。ぼくらも正直当日までどんな音楽をかけるのかわかりませんが、「ULTRA」というメディアがあるからこそ、新しいチャレンジだったり、良いと思う人を紹介したい。時にはそれが伝わらない可能性があっても、チャレンジすべきだなと思っています。

——今年のトピックスのひとつにTiëstoが8年ぶりに来日し出演することが挙げられます。
そうですね。ageHaで出演した以来、来日していません。

——トランスの象徴ですよね。
そうですね。ただ、今はいわゆるトランスではないですね。

——例えば、往年のTiëstoファンがメインステージに行ったときに困惑したり…
過去のイメージを持っている人達は困惑する可能性はあるでしょうね。今のTiëstoってお客さんをちゃんと楽しませるというか、彼はトランスが好きだからトランスをやっているというより、時代をちゃんと掴んでいるプロデューサーだと思っています。それに若手をたくさん引き上げたりするのでそういう意味でちゃんと文化を育てようと、道を考えている人なんですね。昔のTiëstoのイメージとは違うなと思いますけど、アーティストって常に音楽が変わっていくものだから、それが彼の今の答えなのかなと思っています。

——少し個人的な話なのですが、初めて買ったアナログレコードがKaskadeだったんです。今から10年くらい前、新宿のCISCOで買った思い出があります。当時すごく好きでした。それで2014年の「ULTRA JAPAN」に行ってKaskadeをみたら“好きだったKaskadeと全然違う”と思いました(笑)。アルバムのリリースがあるとサンプルがレーベルから送られてくるので、彼の作風の変化はなんとなく分かっていましたが。
彼の昔のインタビューを読んだことがあるんですけど、屋外の会場が広くなっていった時に、ただのハウスやテックとかだと音が単調で届かなくなったと言っていました。そうすると必然的に高音が伸びるトランシーな音になっていったんです。というのは、今のEDMって言われる音楽ってフェスミュージックだと思っていて。あれを狭いクラブでかけるからノイジーであって、フェスで聴くと高音がすごい伸びて、低音は下に響いていくという、すごく屋外に合っていると思います。フェスミュージックって言ったら楽なのに、みんなEDMだ! テクノだ! ってジャンルで分けはじめるから…。じつはテクノも屋外の超広いところでかけると後ろまで届かないんですよね。

——パフォーマンスする場所の変化によって作る音楽が変わっていくと。
そういう意味でいうと、トランスにポップミュージックやヒップホップなどが混ざって、EDMになっていった部分もあるだろうし。今でもTiëstoやArmin van Buurenは昔の曲も混ぜてプレイしていますよ。最初はポップミュージックでオーディエンスのハートを掴み、昔の自分の曲をかけてみたり。あと、国によってプレイスタイルを結構変えますね。ヨーロッパでやるときは、いきなりトランスかける時もありますし、アメリカではちょっとポップにしたりとかね。

——今、海外のいろんなフェスが日本に入ってきています。それをやっている側としてはどのように思われていますか?
1年目、開催した時にまるで「パンドラの箱」を開けたようだと思ったんです。今後いろんなことが起こるだろうなと思って。よくないモノも始まったり、流行りだからやろう、みたいな事がいっぱい生まれたりするんだろうなと。でもそれは長い目で見たら仕方がないことだと思っています。いろいろな事が起きても、良くも悪くも変わる部分がある。最終的には、ふるい落とされて本当に良いものだけが残ってくると思いますしね。やっぱり進化する過程においてはチェンジする何かが必要で。一番怖いのは表面だけ真似して中身がスカスカという状態で、お客さんから「つまらなかった」と言われること。「ULTRA」を体感して「すごい!」と思ってくれて、似たようなイベントに行ったら「あれ?」みたいなことって実際あるじゃないですか。それはすごく残念だなと思います。僕らもできない事はたくさんあるんですけどね。

——できていないこととは?
音の問題をどう改善するかとかいろいろな規制ですね。誰もいない僻地ですれば、すごく大きい音を出せるけど、街中という環境とどう向き合っていくか。そこには周辺地域の人に少しずつ理解をしてもらわなくてはならない部分もあります。チャレンジ、チャレンジと言っていますが、それはお客さんの体験を考えているという事です。ただ儲かるからやるとか、流行ってるからやるとか、ただ注目されたいからやってる人達も中にはいると思うので。そこは、残念ではあるけれども、とにかく少しでもお客さんに楽しんでもらえる環境をつくり世界のスタンダードを提供したい気持ちで一歩一歩ですがチームでチャレンジしてます。

——長い目で見るとは、どれくらいを想定していますか?
本当に変わったとわかるのは10年後とかなんじゃないかなと思います、10年後、20年後に「ULTRA」が来たことによって音楽や世の中が変わったよね、と。将来世界で活躍している誰かが「10年前にたまたま友達に連れて行ってくれたお台場がきっかけで海外いくようになって、今僕は海外にいるんです」みたいな人がいたらいいなと思ってやっています。



「ULTRA JAPAN 2016」RESISTANCEステージ出演アーティストの楽曲をAWAで視聴する
awa - Event Information -
タイトル:ULTRA JAPAN 2016
開催日:9月17日(土)、18日(土)、19日(月・祝)
会場:東京・お台場ULTRA JAPAN特設会場(東京都江東区青海)
時間:開場9:00 | 開演11:00 | 終演21:00(予定)

■ULTRA JAPAN 2016
http://ultrajapan.jp