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Rainbow Disco Clubの躍進と未来。
広がり続ける「レインボー」という名のフェス

取材・文:編集部
写真:Jiroken、Ken Kawamura、Masanori Naruse、Suguru Saito / Red Bull Content Pool

 

 東伊豆の新緑に囲まれた芝生のダンスフロア、真っ黒なピラミッド型が印象的なフェスティバル「Rainbow Disco Club」(以下RDC)。その初回は2010年、レインボーブリッジや高層ビルを望む東京・晴海客船ターミナルで開催されていた。ヘッドライナーは、8年ぶりに来日したDJ HARVEYだった。思い返すと音楽の方向性は変わらないが、環境は今とまったく違っていたことに驚く。それほど、今のRDCがRDCらしいと思える。東京での開催時に比べ、東伊豆での開催は成長や変化を目の当たりにしてきたのが大きい(東京開催も震災や悪天で2年連続開催中止など、壮絶なドラマもあったが)。東京での開催はDJ HARVEYの出演もあって初開催から動員客数的に大盛況。いっぽう東伊豆での1回目は、盛況はしていたものの“大”は付かなかった。いきなりメジャーデビューとインディーズバンドから地道にスタート、それくらい差はあった。しかし今年のRDCは、もうすぐメジャーデビュー。そんなところまで成長したのではないかと思う。そうするとファン心理としては少し寂しくなるのだが、何か一皮向けた印象だ。その何かとは何だったんだろうということを考えてみる。


非クラバーのアンテナにも引っかかる。
レイブ、パーティーからフェスティバルへ。


メインのテントエリア。写真左側にメインステージが広がる。

 東伊豆に会場を移したのは2015年。今年で4回目の開催。私も2015年から毎年参加しているがRDCの評価が右肩上がりだということは、見ていて分かる。回を重ねるごとにフロアの人口密度は増しているし、年々お客さんの入り時間も早まっているそうだ(テントエリアの争奪戦だ)。それにSNSでのリアクションも良いものばかり。口コミが広まってか、今年はアンダーグラウンドなクラブミュージックにあまり興味を示してこなかった層も取り込めていたように思う。友人にばったり会い「お前、こういうの興味あったっけ?」と心の中で思うことが度々あった。クラブカルチャーという枠の中にあったものが、自然と収まりきらなくなり、枠の境界線付近にいた人たちのアンテナにも触れたのだろう。レイブやパーティーといったクローズされたクラブカルチャーならではの枠組みからこぼれ出し、一般層にも触れるようになったのではないだろうか。さまざまなフェスティバルと呼ばれるものを見てきているが、これはフェスティバル? レイブ? パーティー?とフェスティバルの定義が定めることができず、表現に迷うことがあった。限定的なカルチャーに明るくない人(ここではクラブカルチャーに明るくない人)にも届くものということが、私なりのフェスティバルの定義になったし、もうRDCをレイブやパーティーで表現することはできないと思った。


数年後にはチケットが入手困難なんてことも!?
積み重なる来場者の成功体験とキャパシティの関係。

ピーク時メインステージの前方の様子。



 あと数年すると、RDCのチケットは入手困難になるかもしれない。そんな未来もあり得るなと思った。まず大前提として、「楽しかった」という来場者の成功体験の積み重ねがある。リピーターにとって“アーティストで誰々が出る”ということは、もはや関係なくなってきているのではないだろうか? 私もそのタイプであるし、RDCだったら仮にラインナップが全てシークレットだとしても行っている。それほどこれまでの成功体験から信頼をしている。そういったフェスティバルは極めて少ない。「朝霧JAM」や「The Labylinth」のように出演者が発表される前にチケットが売り切れる。なんてこともあるのではとも思えてくる。
 
 右肩上がりの人気に対し、会場のキャパシティは限られている。まだ使っていないスペースがあるなら話は別だが、現在の環境で、あと1000人来場者が増えたら……、もしかしたら居心地が悪いと感じるかもしれない。そうなると会場をより大きな場所に移すか、人数を限定し来場者の満足度を維持するか、といったふたつの選択肢が出て来ると思う。
 
 しかし会場を移すのは考えにくい。それほど、芝生が広がるフロアから眺めるピラミッド型のステージはRDCを象徴している。また、街も含めた会場一帯のロケーションを楽しみにしている人も多い。会場へ向かう途中から現れる太平洋。そこで採れる海の幸。会場付近に点在する温泉などなど。となると「The Labylinth」のように入場者数に上限を設ける運営のほうが来場者の満足度は維持されるだろうし、熱烈なファンにとっても嬉しい。しかしそうなると今度は興行としての成長は上限が見えてくる。もちろん利益のためだけに開催されているわけではないが、収益を上げるための工夫が必要になってくる。



遊ぶ側の要望と主催者側の表現のバランス。

2日目のメインステージのヘッドライナーをつとめたDJ NOBUとJOEY ANDERSON。ちょうどこの日は満月だった。


 ここで、他のフェスにはあって、RDCにないものを考えた際に思いつくのが1日券だ。2日目から参加している人の姿もたくさん見た。3日目から参加している人もいないわけではない。しかしチケットは3日間通しチケットしかないわけで、そのことを理由に来ることを断念した人も少なくないはずだ。1日なら行けるのに…と。
                                                          
 「1日券、いいじゃないか。取り入れてください!」となるかもしれないが、それに待ったをかけたのがタイムテーブルという美学を3日間に感じられたこと。初日のヘッドライナーはFOUR TETとFLOATING POINTSの5時間に及ぶB2B。ロングセットのためジャンルレスにさまざまな音楽が楽しめたが、野外に映える、例えば硬い音は少なかった。グッドミュージックは楽しめたものの、サウンドへの没入感という面では少し物足りなく感じた。
 
 しかし2日目は、初日とは打って変わりテクノをはじめ野外的なサウンドが多く飛び出す。OCTO OCTAのグルーヴィなサウンドには、自然とフロアへと引き寄せられたし、続くJOSEY REBELLEは、90sのレイブ感を彷彿とさせるイナタいテクノ、そこにダブなども絡めてくるイギリス人らしい雑種性に釘付けだ。「Too Muchじゃない?」って声もあったが、新鮮味溢れるプレイだった。そしてDJ NOBUとJOEY ANDERSONのB2Bは、2人で作り上げるというよりインファイトの殴り合いのような緊張感があった。ここで昨日は、まだ3日あるうちの初日だったのだと気付かされる。このB2Bを3日間の山(テンション)の頂点として、緩やかに終焉の着地に向かっていく。3日間をひとつの流れとしてみたときに、タイムテーブルの妙が浮かび上がってくるのだ。3日間のストーリーあってのRDCという考え方もできるため、1日券あればいいじゃないか!? というのも、もしかしたら主催者の意に反してしまうかもしれない。
 
 増えてゆくファンと限りあるキャパシティ、遊ぶ側の要望と主催者側の表現のバランス。これは、成長したが故に抱えるジレンマであり、期待値の現れだ。抱える課題がこれまでと変わりだしたのではないかと感じたことに、一皮むけた姿を見たのだろう。数年後、生き物のように突如脱皮するかもしれないし、ゆっくり成長をするかもしれないが、今後もその成長の目撃者であり続けたい。



奥に見えるピラミッドがメインステージ。写真右手はキャンプエリアになっている。


2日目、3日目の朝はヨガからスタート。約1時間みっちり。


ピラミッド型のステージの裏手には公園のようなエリアも。クラフトビールやワインも楽しめた。



キッズエリアも充実しているため、こども連れが多いのも特徴的。


日が暮れると照明の演出も激しくなり日中とは違う雰囲気に。後ろの木々もスクリーンとして使用される。


セカンドステージは体育館。Red Bull Music Academyがキュレーション。
 

3日間の様子をまとめたダイジェストムービー。