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クリエイティブで刺激的な都市ポルトガル・リスボンで初開催!| Sónar Lisboaイベントレポート

-Sónar Lisboa
2022  4/8-10
https://sonarlisboa.pt/
https://www.facebook.com/lisboasonar

Text by Norihiko Kawai
Photo by Sónar Official, Anri, Katsuhiko 


 
 ポルトガルのリスボンで初開催されるSónarの取材にこないかと連絡がきたのが、2022年が明けて間もない1/11だった。ちょうど僕は日本に一時帰国していた時で、初詣のご利益を感じつつ、すぐに社長にメールを入れ、取材に行きたい旨を伝え、一つ返事でOKを得られた。

 出発当日、オランダのアムステルダムはいつものようにひどい風と雨に見舞われていて、搭乗前に靴は濡れるわ、前日あたりに子供から胃腸風邪をもらってしまったようで不安な出だしとなった。

雨のスキポール空港

 アムステルダムのスキポール空港から3時間もしないうちにリスボンのポルテラ空港に降り立った。アムステルダムとは打って変わって天気も良く気温も暖かく搭乗前の不安は自然とかき消された。空港にはSónarのスタッフが、僕と同じように招待しているジャーナリストを迎えにきてくれていて、用意してくれていたホテルにスムースにチェックイン。ホテルにはベルリンを中心に多くのクラブ系メディア関係者が集まっていて、国際的なコミュニケーション能力が問われる現場でもあった。

 ちなみにこの時期にポルトガルに入国するには、EU内で認められているワクチン接種証明や陰性証明、回復証明に加え、飛行機ではどの座席に座り、ポルトガルではどこに滞在するのかなど、事前に事細かくweb上で申告する必要があった。

https://portugalcleanandsafe.pt/en/passenger-locator-card

ポルテラ空港到着時、人の往来は活発だった

 Sónarといえばポルトガルのお隣スペイン・バルセロナで94年にスタートした都市型フェスの先駆的な存在で、南米やアジア、東京でも開催されてきたことを考えるとクラベリア読者ならば説明は不要であろう。

都市型フェスの重要な要素の一つである開催会場。今回の Sónarでは4つのベニューが用意されていた。Sónar Clubを行っていたCentro de Congressos de Lisboa(以下CCL)は国際会議場で、展示会やイベントなどにも使用される多目的スペースで、リスボンにおける幕張メッセのような位置付けだと感じた。Sónar HallとSónar Villageを開催していたPavilhão Carlos Lopes(以下PCL)は、リスボンのダウンタウンエリアという絶好のロケーションに位置し、小高い丘エドゥアルド7世公園内にある巨大な洋館。1922年にブラジルのリオデジャネイロの国際展示会でポルトガル産業のパビリオンで使用された建物が解体され、1932年に現在の場所へ移植された歴史的に価値のある建物。3つ目の会場Coliseu dos Recreiosは、土曜日のみの開催であったSónar Pubが行われた。ここはスタンドの場合キャパは4000人ほどで、本館が1890年に建設されたことから、ポルトガルの芸術的遺産の歴史的な中心地となっている。最後の会場はクリエイティブなテクノロジーに特化したコンテンツが集まるSónar+Dの会場として使用されたHub Criativo do Beato。ここはかつて軍隊用の工場として使用されていた場所で、2016年まで10 年以上使用されていなかった。現在はリスボン市議会の投資を受け、大企業からフリーランサー、スタートアップ企業やその周囲のコミュニティが共有するオープンなイノベーション・ハブへと改装されている。各会場の規模や雰囲気が、イベントカラーやラインナップにピッタリと当てはまっており、さすがはSónarと思わせる会場選びだった 。


CCLの外観

PCLの外観
 
Coliseu dos Recreiosの内部

Hub Criativo do Beatoの敷地外観

 到着した開催前日の4/7は、インビテーション制のプレスカンファレンスとプレパーティーがSónar+Dの会場Hub Criativo do Beatoで開催された。プレスカンファレンスでは、リスボンの街がクリエイティブな事業を応援している旨を伝えており、行政からも複数の関係者が参加。プレパーティーでは日本人アーティストIntercity-Expressも出演し、本開催を待ちきれないフリークや関係者で賑わいを見せていた。



プレパーティーの招待状

 迎えた開催当日、昼間はミュージックプログラムがまだスタートしていなかったので、昨日訪れたSónar+Dの会場を訪れてみた。

軍用工場跡地の広い敷地内を贅沢に使用しており、改装中なのかと思われるさまざまな建物の中で、最新鋭のデジタルコンテンツからワークショップまでと、Sónar+Dならではの多彩かつクリエイティブマインド を擽るプログラムが用意されていた。

その中で個人的にインスパイアされたのが、Nine Inch Nailsのツアーおよびスタジオメンバー、作曲家であり、Daniel Averyなどとのコラボレーションも行うイタリア人Alessadro Cortini初のインスタレーション作品だった。過去に工場だったビルの4フロアを使った没入型のダークアンビエンスなオーディオインスタレーションで、工場の古い機械と照明、スモークマシーンからの煙、それらが彼のサウンドに反応し、幻想的な世界を構築していた。最上階には大きなロータリーフェーダーが設置され、4つの音領域を来場者が操作できる仕組みになっており、DJさながらに館内の雰囲気をコントロールでき、時間を忘れ楽しんでしまった。

Sonar+Dの敷地内

Alessadro Cortiniのインスタレーション内部

Alessadro Cortiniのインスタレーション内部

 このSónar+Dではワークショップも開催されており、ベルリンから日本人クルーがかけつけていた。 2つのケーブル会社(OYAIDEとenoaudio)が共同でブースを出しており、両社のケーブルプロモーション、そして来場者にケーブル作りを楽しんでもらう趣旨となっていた。OYAIDEの欧州市場でPRを担当し自身もDJを行うAnriさんとenoaudioのコアスタッフでミュージッククリエイターとしても活動する佐賀井克彦さん、enoaudioの社長・飯野佑紀さんが現場に居合わせた。ケーブル作りのワークショップに出演アーティストが参加したり、見学に訪れるなどコミュニケーションの場としても機能していた。 欧州の地で着実に歩みを進める両社、今後のさらなる活動に注目したい。

Oyaide NEO (Tokyo) 
https://www.neo-w.com/

enoaudio (Berlin)
https://enoaudio.de/en/


ワークショップの行なわれていた建物内部

ケーブル作りのワークショップを行う佐賀井克彦さん

ワークショップブースに立ち寄ってくれたrRoxymoore

 この日の夜から、Sónar by Nightとして、メイン音楽コンテンツもスタートした。まずは、宿泊先から徒歩圏内のPCLでThundercatのライヴを堪能。22:00という時間と金曜の夜ということからか、年齢層高めの客層だった。DJやエレクトロニック系のアーティストとは明らかに違う演奏を通じてのオーディエンスとの距離感、「Them Changes」をプレイした辺りから、ムーディーな雰囲気も相まって僕はとろとろに溶かされていた。その後に登場したNídiaは、その場の雰囲気を壊すことなく、独特のアフリカンリズムでフロアをはめ込み、関係者からの評判は高かった。彼女のsoundcloudを是非チェックしてみてほしい。 

ステージ上のThundercat 



 会場内でベルリンクルーと合流し、Björkとのコラボでもおなじみ変幻自在のアーティストArcaのパフォーマンスに打ちのめされた後、CCLに向かった。 会場に一歩足を踏み入れると、デトロイトテクノシーンの重鎮でUrban Tribe名義でも活躍するStingray 313のライヴが行われていた。深く重みを感じられたサウンドスケープがすこぶるかっこいい。巨大な会場全体を包み込み、そのプレイに久しく感じられていなかったビッグフェス特有の音圧感覚が呼び起こされた。その後に登場したRichie HawtinとHéctor OaksのB2Bセットで会場は一気に爆発し、ラストのCharlotte de Witteにバトンを繋ぎ、ダンサンブルな宴は朝方まで繰り広げられた。


Arcaプレイ時のオーディエンス

Richie HawtinとHéctor OaksのB2Bセット

 開催2日目、昨晩にオーガナイザークルーにリスボンのFLUR DISCOS というレコ屋を強く勧められたので、日中の時間を使い訪問してみた。リスボンでよく見かける円形状の市場の一角に構えられた店はこぢんまりとしていたが、いかにも内容の良さそうな雰囲気を醸し出していた。レコードとCDがジャンルごとに丁寧に並べられ、エレクトロニック・ミュージックはもちろんのこと幅広いジャンルをカバーしながらも厳選されたセレクションで、店には入れ替わり立ち替わり客が訪れていた。スタッフのTomasに話しかけてみると若干27歳ながらも店のバイヤーも務めつつ、名門クラブLux やリスボンのシーン中心にdj活動を行っており、気さくに現地の事情を教えてくれた。以前に当webでもインタビューを敢行したJoão Mariaは、現在Collectというレコ屋兼DJバー的なカフェ/レストランをオープンしたようなので、リスボンを訪れる際にはぜひこれらの店にも立ち寄ってもらいたい。 

ちなみにリスボンでは、あらゆる会場やお店に入るのにも、特にコロナのワクチン接種や陰性証明の提示はなかった。

FLUR DISCOS
https://www.flur.pt/

Collect
https://collect.pt/  

FLUR DISCOSの店内

FLUR DISCOSの外観
 
 2日目の夜、この晩だけのプログラムが組まれていたColiseu dos Recreiosに向かった。1890年にオープンしたこの歴史的建造物、とにかく雰囲気が半端ない。オペラの劇場にも使用されるほどの由緒正しい会場で、アーティストの演奏が一層引き立つのはいうまでもない。こんな場所でパーティーを行える環境は本当に羨ましい。会場入りするとLeon Vynehallのライブが既に始まっていた。エクスペリメンタル、ブレイクス、レフトフィールドハウス、テクノ等のジャンルを縦横無尽に使いわけ、その音色と展開にオーディエンスはうっとりしているように映った。
 
 そして、楽しみにしていたrRoxymoreのライブも期待を裏切らず、最高のプレイだった。緩急をつけたブレイクス・グルーヴにハメの妙技的なヒプノティックなミニマリズム、モダン・ミニマルハウスシーン最前線を体感させてもらった。

Coliseu dos Recreios内の雰囲気

見事だったLEON VYNEHALLのライヴ



 そう今回のSónar忘れてならないのが、会場内の全ステージにOyaideのNEO/d+ケーブルがインストールされ、会場内のワイヤリングをNEOケーブルがサポートしていた。ベルリン在住、PR担当のAnriさんが会場内を駆け回り、出演アーティストへ丁寧にケーブルをPRしていた姿が印象に残った。このような地道な活動が実を結び、着実にNEO/d+ケーブルが認知されていくのだろう。

ブースにインストールされたNEO/d+ケーブル

 迎えた最終日、太陽も姿を見せ穏やかな心地よい天気だった。今日はホテルから最も近い会場のみで昼と夜のプログラムが組まれていた。せっかくリスボンに来ているのに、ここまでほとんどポルトガル料理を食べていないことに気づいた。やはり地元の人に美味しい店に連れて行ってもらうのが一番だろうと思い、現地在住のプロ・パーカッショニストのRyokoさんとポルトガル人の旦那さんモーゼスさん行きつけの店Galetoに連れていってもらった。レストランバーといった感じのお店で肉料理と魚料理どちらも揃えていた。欧州では日本のように美味しい魚料理にありつけることは稀だが、ポルトガルは別格だ。このお店は本格的でありながらもお財布にも優しいので、オススメしたい。

Galeto
https://www.facebook.com/pages/Galeto/177271128958770
Ryoko Imai
https://www.ryokoimai.com/

リスボンの街中

魚介類が豊富なポルトガルの市場

 日も暮れかかった頃にPCL 入りすると野外に作られた屋根付きのステージでEvan Baggsが若い層のお客さんの期待に応えるようにテッキーなハウスで夕暮れを彩っていた。しかし、そのステージのフロア横では、外部との境界線であるフェンス越しに通行人が近距離でEvan Baggsのプレイを楽しんでいた。なんと緩いことか! 3日目ともなるとステージ裏に行っても馴染みの顔がちらほらといて、寛いでフェスに参加できるようなシチュエーションとなっていた。そんな中、本日のお目当のJayda Gが登場した。感情のこもったステージパフォーマンスから湧き上がるパワーにオーディエンスは心を掴まれ、ダンサンブルなハウスやディスコ、そして和物までをも織り交ぜ、さすがはグラミー賞にノミネートされたアーティスト、ナイスセットだった。その後は現地の関係者に一番人気だったOvermonoがエレクトロやドラムンベース系のテクノなどのパワフルなトラックでフロアを熱狂させ、最後は地元リスボンのViolet とBleidのドラムンベースB2Bセットで幕を閉じた。

 今回のSónarでは、DixonやRichie Hawtin、そしてAllen Allienをはじめとした大物がB2Bセットを行っており、今後大型フェスティバルを中心にB2Bセットがさらに増えていくのではないかと感じさせられた。


チケットがなくても会場外で楽しめてしまう緩さ



最終日の屋内ステージ

 今回、 会場内での飲食やマーチャンダイズの購入は完全にキャッシュレス化されていた。入場者全員にリストバンドが渡され、リストバンドに埋め込まれたチップにお金をトップアップする仕組みとなっていた。日本では通常の生活においても、まだキャッシュレス化が進んでいないように思えるが、欧州では通常の生活でもほとんど現金を持たなくてもいいほどにキャッシュレス化が進んでいることも付け加えておきたい。

リスバンドの使い方が記された資料

気になる会場内のドリンクの値段は?

ポルトガル語圏ならではのアサイーショップ

今回お世話になったクルーと共に
 
 2010, 15年以来、 3度目の滞在となったリスボン、穏やかな気候がそうさせるのか、いつ来てもとにかく人が温かい。そんな中で行われるフェスであれば、最高の体験があなたを待っているのではないだろうか。今回のSónarで再確認できたのは、パーティーにおける出会い、地道な活動、そしてチャレンジすることの重要さだった。日本から遠く離れた国ではあるが、コロナも落ち着き久しぶりの海外でのパーティー体験をお望みの方はポルトガルのリスボンもぜひ候補に入れてもらいたい。

最後に来年もリスボンでSónarが開催されることがアナウンスされたのでここに記したい。

Sónar Lisboa 2023 3/31, 4/1, 4/2  
https://sonar.es/en/2022/news/sonar-lisboa-returns-in-2023-between-31-march-and-2-april

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https://bit.ly/sonarlisboa2023