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子育てと音楽活動の両立
Vol.7:「うちはユルくてダメで良い」Numb

取材・文・写真:Koyas

 子持ちの音楽家に、子育てとそのプライベートに踏み込む記事の第7弾は、エレクトロニカ〜テクノなどの電子音楽を生み出すNumb。古くは90年代のニューヨークでBuddha Brandのマニピュレーターからキャリアを始め、名高いシスコテクノ店で当時花形の職業だったバイヤーを担当。テクノロジーについても造詣が深く、雑誌「サウンド&レコーディングマガジン」で連載を持ち、美学校でDTMの講師をしていたりと、さまざまな経歴を持つ方です。その流浪の経歴に興味を持ち、今回ご登場いただきました。現在は山口県と東京都での二重生活を送るNumbさんの子育て観についてお話を伺いました。

3.11をきっかけに山口に移住

KOYAS : 今回ご登場頂いたのは、Numbさんとじっくり話する機会が今までなかったなと思いまして。最後にアルバム出したのが2012年ですね。

Numb : 学校(美学校)行って、企業系の仕事して、っていう流れが多くなって、作品を作ることがあまり無くなっちゃった気がしますね。ただ、子どもやお金のことも含めると、そういう仕事を沢山やらなきゃいけない時期があるのかも。ただ、ライブはぼちぼちやってますね。

KOYAS : なるほど。家族構成についてお聞きしたいのですが?

Numb : 嫁と13歳の男の子が一人。2006年生まれの中学2年生。嫁はずっと仕事しています。

KOYAS : 以前SNSでみたんですけど、今は山口にいるのですか?

Numb : 最初は川崎に住んでいたけど、待機児童の問題で認可外保育園に行くしかなくて、めちゃくちゃ高かったの。嫁が仕事した分をつぎ込んでも、ほぼほぼ残らないとか馬鹿らしいじゃない?それで立川に引っ越して4-5年住んでたかな。
3.11のあと少し経って、嫁のお母さんが亡くなったタイミングがあって、東京で子ども育てるってどうなのかなという話になったのね。嫁の実家が山口で、自然環境が良かったりしてアリかなと気楽に考えて、引っ越しちゃった。ただ、僕の場合、仕事は東京なので半分単身赴任…山口帰れるときはがっつり帰る、みたいな生活スタイルにしています。

KOYAS : 今でもそういう感じなんですか?

Numb : 今でも年間に30回近く飛行機乗って移動していて、東京に1週間いるときもあれば、2〜3ヶ月ほぼ帰れないときもあって。単純に定住が嫌なだけかもしれないけど、今の方が旅人的な感覚で動けるから楽だね。その間ライブがあると、モジュラー持ち歩いてすごい大変だったりするんだけど。

KOYAS : 東京にいるときは主に仕事ですか?

Numb : そうですね。仕事や学校とかライブで。あとは東京の実家に帰って制作する仕事やっている感じかな。山口ではオンラインでできる事だけ。

KOYAS : 所謂スタジオ的なものがあるのは?

Numb : 山口。そっちの方がゆっくりできるし、音出せるから。東京にいるときは簡単なスピーカーしかないから、ちょっと困難なときがあるね。

KOYAS : Numbさんがいない生活になって、家の中に変化はありました?

Numb : それはないみたいよ(笑)。やっぱり締切があったりすると機嫌が悪い、とかあったんだろうね。家にいると締切と家族の生活を混同することになっちゃうから、逆にいない方がバランス感覚的には良くなったのかな。

仕事ではコンピューターで、自らの作品やライブはモジュラーシンセを核として制作しています
提供・談 : NUMB

現場は東京、作業は山口

KOYAS : よくある一日の流れを聞きたいのですが、現場がない日はどんな感じですか?

Numb : 朝は息子が学校に行った後に起きますね。彼が小さい時は保育園の送りとかしてたけど、今はもう中学生なので。息子が帰ってきたら一緒におやつ食べたりして(笑)。嫁が仕事から帰ってきたら家事を手伝ったり、帰ってくる前に皿洗いしておくとか。
現場がある日は東京にいるので、ギリギリまでライブの準備して、普通にリハーサルに行って。

KOYAS : 山口での夜はどうしているんですか?

Numb : 今は夜遅くまで作業しています。昔は朝早く起きていたけど、子どもも大きいから、もう子どものことは何もしないですね。ただ、一緒に話したり、息子がゲームやってるのを眺めたりというコミュニケーションはすごくあって、友達みたいな感覚なのかも。親という感覚が薄いのかな。
親バカとかではなく、息子がなかなかしっかりした子で、息子にこうしろとか言わないし、怒ったこともほぼなくて。うちも最初の3年くらいは大変だったと思うけど、息子は可愛いし、今思うととても楽しかった。

KOYAS : 現場のない週末とかオフの日はどんな感じなんですか?

Numb : 息子が行きたいところは行ったりするけど、中学生だからもう親と歩きたがらない。外には彼の社会があるし。でも小さいときは毎週のように色々な所旅してた。 遠くの温泉にも家族で車でしょっちゅう行ってたよ。

嫁も打ち込みするので共有のグルーブマシーンスペース 提供・談 : NUMB

自然体の子育て

Numb : うちはこの記事にあうのかな〜って思いながら今日来たんだけど(笑)。

KOYAS : 僕がこの記事を書くのは、子どもがいる家庭にも色々なケースがあることを紹介したくて。

Numb : こういう出産・子育てがしたい、ってマニュアル的な方向で進んだら、あわなくて大変なことになったおうちも見てきた気がして。だから、うちは自然に何も考えず、産まれました、「可愛いね〜」でずっときちゃっている。
大変な事も多々あったけど、うちはその子のパーソナリティーを尊重するイメージで、見ているだけでほとんど手をつけない。僕の役割はひたすら遊んでいるだけ。ただ、これは自分でやっといてと、なるべく自分でやらせる方向性の子育てはしているかも。

KOYAS : 親にとっては手を出すより見守ることの方が難しいと思います。

Numb : そうかも。面倒くさい・時間がないってなると、全部自分でやっちゃった方が早いという親御さんは多いと思う。本当に忙しくてそれしか選択肢がない場合もあるし。お父さんが12時まで帰ってこないとか、ほぼほぼ片親なパターンって多いじゃない?
うちは俺がフリーランサーで家にいるから、保育園とかも「明日行きたくない」といえば、別に良いよって。その代わりに、小さいときから「お父さん仕事しているから、自分で上手いことやって貰っていい?」っていって、俺は普通に仕事していたね。放棄っていう感覚ではなく、共存するためにね。自分で考えて、ああだこうだやって、わからないことがあったら聞いてよ、みたいな感覚。

KOYAS : それはいつ頃からですか?

Numb : 1歳とかだった気がする。今考えると信じられないんだけど。

KOYAS : うちは全然仕事できなかったですよ。

Numb : 息子は無理なことはしないし、もともと静かな子だったからかも。いまだにそうなんだけど、お陰で楽させてもらっていたのかな。

KOYAS : 仕事中に子どもに邪魔されないコツみたいなのはありました?

Numb : 邪魔しないんだよね、全く。レゴを毎日作るような子で、走り回ったりもしないから、逆に俺が走らせたりしていた。

「息子」のインテル第九世代を主とした自作PCとスターウォーズのレゴ 提供・談 : NUMB

息子とは友達感覚

KOYAS : レゴってモジュール型じゃないですか(笑)。

Numb : そうなんですよ、完全にモジュール型で(笑)。小学校1年生の時はスターウォーズのでかいレゴを平気で作っていたから。
そこでもう飽きちゃって、マインクラフトとかゲームやり始めて。中1でめちゃくちゃ速いPC自作して、デュアルディスプレイにしてすっごい難しいゲームやってるよ(笑)。

KOYAS : ゲーミングPC自作って深い世界ですね(笑)。

Numb : そうそう。PC作る時は一緒に手伝ってあげる。パーツ選びとか、これ買った方がいいんじゃない?とか、本当友達っぽいよね。Google検索の仕方とか、英語で出てくるやつとかも俺が見てあげて。
やつのマインクラフトは改造しまくっていて、お城が作れたり、戦車や戦闘機に乗ってでかけたりとか。聞いてもわからないだろうけど(笑)。

KOYAS : わからないです(笑)。

Numb : めっちゃハイスペックで面白いよ。今はプログラミングもやっていて、親子でScratch(子ども向けプログラミング言語)をやって、俺がわかるところは教えたり。もうほぼできるようになっているね。

KOYAS : それは将来有望ですね。

Numb : 彼といると友達感覚で楽しいね。うちは体験をするのが一番いいと思っていて、小さいときはライブに連れて行ったりしてた。

KOYAS : 現場に子どもを連れて行くと、出番まではお父さんでいる時間があったりして、そこから演者への切り替わりとか大変では?

Numb : 俺は全くないんだよね。お父さんでいる自分と、音楽家で仕事している自分の境目がない。確かにライブ前はあんまり喋ってないけど、それは自分の素のままでいるだけで、単純に余裕が無いだけかも。でもそこで息子に怒ったりというのはないし、あったとしてもすぐ謝ると思う。


昭和の父親像への反発

KOYAS : 育児書にあるお手本みたいな感じですね。

Numb : 最初から子育てしている感覚がないんだよね。実家が父親不在の昭和の家庭で、まったくコミュニケーションがなかった。

KOYAS : そんなに家にいなかったんですか?

Numb : いないし、帰ってきて父親面していきなり怒られたりするから、昭和の父親像にいい覚えが無かった。お袋が死んだときに、俺は父親に全然責務果たしてないと嫌味をいったんだよね。そうしたら「父親の役割っていうのは、仕事をしてお金を持ってくればいいと思っていた」と言われて。
これはすごくショッキングで、どういうことか考えると洗脳があった。昭和の戦前に生まれた人で、苦労しててお金がないからそうせざるをえなかった。時代に翻弄されたかわいそうな人だと思って。嫁が一人で育てて当然だという、当時の日本社会の混乱が出ているよね。
でも、うちの親父の父親像で(育児を)やったら、明らかに息子と仲悪くなるから、その父親像は一回捨てているんだよね。

KOYAS : うちの父親も帰りが遅くて、酔っ払って帰ってくるのが嫌でした。だから中学生の時は「大人になっても酒なんか飲まない」って(笑)。

Numb : 俺も30まではほとんど酒飲まなかった。

KOYAS : 高校生で飲んでましたけどね(笑)。

Numb : そうそう、中学・高校は俺も飲んでた。それで20で辞めるっていう(笑)。

KOYAS : 暴走族みたいですね(笑)。

Numb : うちらの年代はそうかもね。だからアダルトチルドレンみたいな人が多くて、子ども生みづらいっていうか。
息子を見ていると優しく育っている気がして、子育てのやり方はこれでよかったと思う瞬間はある。息子にとっていい未来になるように、自分もそこから学べるように、と思ってやっているけど、親になって所詮13年だからこれが正解か未だにわからない。

KOYAS : それってアーティスト活動と似ているような気がします。

Numb : 作品作るのと似ているかもね。だからこそ、子育てを語るのって難しいし、やらなきゃいけない部分でもあるよね。



親から子へ継いでいくものが途絶えた

Numb : あとは子育てって親の世代からの繋がりや社会の流れもある。例えば昔住んでいたNYにいるようなヒスパニックで家族をすごく大事にする家だったら、子どもが生まれるとお兄ちゃんが下の子を見るとか、擬似的に子育てしているかもしれない。
だけど、日本では、俺らの世代はそこが全く無くて、ゼロベースになっちゃう。子育ての環境が整わなくなっているから、誰も手伝わないでしょう。

KOYAS : 普通だったら親から子へ脈々と継いでいくものがあるけど、日本の場合はどこかで途絶えた気がします。

Numb : 途絶えちゃった気がする。特に昔の父親は、現実的に子育てできなかったケースも多いからどうにもならない。それが結局自分の子育て論に繋がっていくのかな。親父という強烈な反面教師がいたから、息子にとっては良かったのかも。

KOYAS : 自分がやられて嫌だったことは子どもにしない。

Numb : それは明らかに子育てのコンセプトにあった。子どもである前に人間だから、嫌なことは嫌に決まっているじゃない。それを親だからやっていいってことは絶対にないし、体罰や暴力だってそうだし。
だから、ダメなお父さん・頑張っているお父さんも含めて、どうせ人間ってダメなんだよってありのままを全て見せるコンセプトなのかも。息子が社会に出てしんどくなっても、うちはユルくてダメで良いんだなって、いつでも帰ってこれる救済場所でありたい。無条件で彼の存在を肯定して、愛してあげることが、彼自身の根本的な自己肯定や自信になるっていうのは、夫婦で考えましたね。
あとは(子どもに)体験させること。去年も沖縄行って、船で海の真ん中に行って潜ったんだけど、海亀とか完全に自然の状態だよね。すごく嫌なことがあった時にこの沖縄の海を思い出して「あ、沖縄行こう」…そういうフラッシュバックみたいな体験がすごく重要だと思う。

KOYAS : 音楽でいうと、レコードは複製で、ライブは体験じゃないですか。

Numb : そうかも。体験が色濃くあると、感覚的に選択肢が増えるのかな。例えば、留学すると外国人の中にいる体験をするから、選択肢が一つ増えるじゃない。その体験が少ないと振れ幅が狭くて、親とか先生が言ったことしかできない子になる気がして。それでは誰かが引いたレールに乗ることしかできない。

KOYAS : ダイナミックレンジが狭くなるというか。

Numb : ダイナミックレンジがすごく狭いポップス聞いている感じよりは、凄い低いベースも聞いて上も聞いて、のほうが良い感覚なのかな。そうすると「俺は日本が合ってないかも」とかチョイスも広がるから。もしそう思ったなら海外に行けばいいし。


大人っていいんだなって思ってもらいたい

KOYAS : 子供が産まれる前と後で、音楽家として何か変化はありましたか?

Numb : 当時は自分の音楽はエゴイスティックの方がいいと思っていたけど、そのバランスが確かに変わってきて、そういうものを求められない仕事にもフラットになってきた。でも一周回って、エゴイスティックに関する危機感みたいなのは出てきたのかも。

KOYAS : 出すとき出さないとまずい、みたいな。

Numb : なんでかというと、自分のエゴを出すことで社会貢献してきた部分もあって。それを出せなくなったら魂抜かれちゃった人になってつまんないな、って。だからそのバランス感覚を上手く持つことを考えるようになった。
2006年に子ども生まれたと同時に「空」ってアルバムがでるんですけど、一番エゴイスティックなアルバムだと思っていて。コンセプチュアルになり過ぎて、自分の中だけで完結して外の世界を一切シャットアウトしたアルバムで、今考えると恥ずかしい部分もあるんだけど。

KOYAS : そのアルバムは今でも自分の中では好きな作品ですか?

Numb : 子どもがお腹の中にいるときの彼の心音を録って、俺と嫁の3人の心音でテクノみたいの作ったりして、記念として楽しいアルバムだし、エゴ全開・プライベート全開のアルバムなだけど、年を食うと、逆にこれができたのはすごいことなんだなって思えてきた。

 
一番エゴイスティックだと語るセカンドアルバム「空」(REVIRTH : 2006)

Numb : さっきの話に戻ると、子供が生まれてから、逆に自分も大切にしなきゃって思うようになった。(親が)子どもを大切にするあまり、子どものためだけに生きていくのって、子どもにとっては重い事もあって。お父さんお母さん人生を謳歌して楽しんでる、大人っていいんだなって、子どもに思ってもらえるのがいいのかもしれない。親も自分を大切にして生きていくっていうのは、今の時代の親としてのコンセプトとしていいと思う。

KOYAS : 育児書にも似たようなこと書いてあります。

Numb : お母さん達は現実もっと大変なわけじゃない。それに対して男親がそういうこというと「お前好きなことやっているだけだろう」って袋だたきに遭いそうなんだけど(笑)。
ただ、うちの嫁に言わせると「あなたはアダルトチルドレンだから自分を大切にしてこなかったんじゃないか」って。親に押し込められて、自分を大切にしないで無理矢理そこに合わせて生きてきたから、しんどい部分あるんじゃないの?って言われて、そこで気付いたんだよね。嫁はすごいわかってくれていて、結局嫁が最強で、全ては嫁に感謝っていう話になってくるのかもね(笑)。


人生があるから自分の音楽がある

Numb : うちはなんで子ども欲しくなったかというと、ヨーロッパにライブしに行ったときにデンマークの友達のうちに泊まったんですよ。そこは結婚してないんだけど、赤ちゃんがいて、めちゃくちゃ可愛かったの。その子育てを見ていて良いなと思ったんだよね。話聞いたら結婚しないスタイルも良いなと思ったし。うちはあんまり結婚にこだわってないタイプかもしれない。

KOYAS : うちもそういう夫婦です。

Numb : 日本だから籍入れとくかっていう感じだけで、うちも感覚的には事実婚に近いかな。子どもが生まれるのと音楽が生まれるのって比べたときに、子どもが生まれる体験ってすごいなと思ったよ。それを考えると音楽でできる体験って限られているというか…。様々な感動や体験を経て、人生があるから自分の音楽があるっていうだけで。

KOYAS : 極論いえば音楽なくても生きていけますからね。

Numb : それは子ども生んだときにすごい思った。実際仕事辞めようかなってなって、嫁に辞める辞めると5年くらい言い続けていた時期があった。他のことしたかったんだろうね。
でも、来月もう金無いから辞めよう、就職就職…なんて思ってたらバーンと大きな仕事入ってくるっていう不思議な流れがずっと続いていたから、やれよって言われてるのかなって思うようになった(笑)。


 


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