文:大前至
ロサンゼルス・ハリウッドを拠点に2005年よりスタートし、今や世界中のさまざまな都市で開催されている世界最高峰のパーティー『The Do-Over』。6月1日(土)には『The Do-Over TOKYO 2019 presented by adidas Originals』と題して、2年ぶりに東京での開催が決定している。“休日の日中に開催される屋外フリーパーティー”という、それまで存在していなかった新たな都市型パーティースタイルの先駆者である『The Do-Over』がどのように誕生したのか、その歴史を追ってみたい。
はじまりはハリウッドにある小さなレストランバー
『The Do-Over』を語る上で欠かせないのが、主催者でありレジデンドDJであるJamie Strong(以下:Jamie)とChris Haycock(以下:Haycock)2人の存在だ。今から14年前、当時、Ubiquity Recordsのスタッフとして働いていたJamie(後にStones Throwを経て、現在はInnovative Leisureの共同経営者)と、彼の友人でありデザイナー/アートディレクターとして活躍していたHaycockは、以前より通っていたハリウッドにある小さなレストランバー、Crane's Hollywood Tavern(以下:Crane's)の雰囲気が気に入り、ここで定期的にパーティーを開催することを思いつく。ハリウッドの中心部にありながらも、イベント会場としてはまったくの無名であったCrane'sだが、緑に覆われ広々としたバックヤードがまるで友達の家の裏庭で週末に行なうBBQパーティーのようなイメージとも合致。お店のオーナーであるDarren Craneも彼らのアイディアを快諾し、2005年5月15日、Jamieの誕生日を祝うパーティーとして第1回目の『The Do-Over』が行なわれた。
JamieとHaycockという2人のレジデントDJと、当時、Stones Throwからソロデビューを果たしたばかりのAloe BlaccがホストMCを務め、さらに毎週入れ替わりでLAローカルを中心にゲストDJが参加するという期間限定のウィークリーイベントとして、初期の『The Do-Over』は形作られていく。当時、LAに住んでいた筆者は、すでに主催者と交流があったこともあり、初年度からこの新しく始まったパーティーへ自然と遊びに行っていたのだが、これまでパーティー不毛の時間であった日曜日の午後に、太陽の光を浴びながら最高の音楽のなかで踊るという体験は、じつに新鮮だったことを記憶している。入場料が無料ということは、ローカルなパーティーでは珍しくはなかったが、LAローカルのトップDJにくわえて、ときおり、ほかのイベントへ出演するためにLAへ来ていた大物DJがシークレットゲストとして登場したりすると、「タダでこんなDJ聴けちゃって良いの?!」と驚いたものである。日本での開催も含めて、“ミステリーゲスト”が今や『The Do-Over』の名物にもなっているが、このシステムもほかのイベントへの出演の都合で名前が明せなかったり、あるいは直前になって出演が急遽決まったりと、さまざまな事情によって生まれたものであろう。
HaycockとJamieとAloe Blacc。
Crane's Hollywood Tavernでの開催の様子。
Crane's Hollywood Tavernでの開催の様子。
音楽業界に広いコネクションを持つJamieとHaycockの2人によってセレクトされたゲストDJのラインナップは、最初の3年間の出演者だけで、まずLAローカルだけでもMadlib、Peanut Butter Wolf、J.Rocc、Dam-Funk、Flying Lotus、Gaslamp Killer、DJ AM、will i am(Black Eyed Peas)といったじつに幅広いメンツが揃う。さらにLA以外からもA-Trak、Stretch Armstrong、Theo Parrish、Keb Darge、Kid Koala、DJ Spinna、Bobbito、9th Wonder、DJ Mehdi、Busy P、Floating PointsといったさまざまなジャンルのトップDJがミステリーゲストとして出演している。当時はまだTwitterもInstagramも存在していなかった時代であり、LAの限られたコミュニティのなかで『The Do-Over』の評判は口コミでゆっくりと広がっていった。なので最初の2、3年まではお互いに顔見知りの常連だけが集うような状態であった。しかし、徐々にフリーペーパーなどのローカルなメディアでも紹介されるようになり『The Do-Over』の評判は一気に広まる。気がつけば毎回のように長蛇の列ができるハリウッド名物のパーティとなっていった。
『The Do-Over』のターニングポイント
初期の『The Do-Over』は5月にシーズンをスタートさせ、毎週のようにパーティーを開催していた。そしてハロウィーン時期の10月末に『The Boo-Over』でシーズン終了を迎える。スポットでサンクスギビング(感謝祭)を祝う『The Left-Over』や、元旦には『The New-Over』というパーティーも開催。このルーティンで『The Do-Over』は運営されていた。このころからすでにサングリアも『The Do-Over』の名物ドリンクとして定着していた。
『The Do-Over』にとって最初の大きな転機となったのが、adidas Originalsがスポンサーとなったことであろう。スポンサーが付いたことで出演するミステリーゲストのラインナップがより濃密なものとなる。さらにスタートから5年目、2010年3月にはマイアミの『Winter Music Conference』に合わせて、LA以外では初の『The Do-Over』が開催される。
しかしこの年『The Do-Over』にとって最大の危機が訪れることになる。会場であったCrane'sの閉店だ。LA最高峰のパーティーとも言える『The Do-Over』のイメージが完成したのは、オーナーの人柄も含めてCrane'sという最高の環境があったからであるのは間違いなく、Crane's以外での開催は考えられなかった。しかし、2010年10月31日の『The Boo-Over』で、Crane'sでの『The Do-Over』はフィナーレを迎えると同時に、最初の黄金期を終えることになる。
一方で、翌年2011年にLA以外のアメリカ各都市と海外への展開を本格的に開始し、『The Do-Over』の第2フェーズがスタートする。日本へ初上陸したのもこの年であり、渋谷のディクショナリー倶楽部 ART SCHOOLで開催された。記念すべき第1回目の東京版『The Do-Over』ではMURO、grooveman Spotらとともに、LAの『The Do-Over』では準レギューラーとも言える存在のRhettmatic(The Beat Junkies)とUKからDaz-I-Kue (Bugz in the Attic)がミステリーゲストとして登場した。以降、日本での『The Do-Over』は東京、大阪、糸島(福岡)などでほぼ毎年のように開催されており、アメリカ以外では日本が最多開催国ともなっている。
世界展開と並行して、LAでの『The Do-Over』も紆余曲折ありながらもハリウッドのCabana Clubという大型のクラブへホームを移して再スタートし、今まで以上の集客力をもつパーティーとなる。ローカル感が漂っていたCrane'sと比べて、Cabana Club(後にLure→Le Jardanと改名)はいわゆるハリウッドらしい最先端のクラブであり、客層も若い年齢層が増え、音楽的にもより幅広いジャンルの音楽が好まれるようになっていった。JamieとHaycockはそんなオーディエンスの変化にも対応しながら、今までの『The Do-Over』のスタイルを貫く。それが今現在も『The Do-Over』がワールドワイドに広がりながらも継続している理由である。個人的にはLure時代にJazzy JeffやQuestlove(The Roots)、あるいはJ.RoccといったDJがミステリーゲストとしてプレイした回の『The Do-Over』は一生忘れることができない、思い出深い体験である。
J.ROCC
Moodymann, Kenny Dope, Benji B, Andres Dez
会場の外にできる長蛇の列
Moodymann, Kenny Dope, Benji B, Andres Dez
会場の外にできる長蛇の列
今年の東京は潮風を浴びながら踊る
今年、お台場シーサイドコートで開催される『The Do-Over TOKYO 2019 presented by adidas Originals』であるが、今回も含めて日本での『The Do-Over』は非常に規模の大きい会場で行なわれてきた。東京では晴海客船ターミナル、ベルサール渋谷ガーデン、大井競馬場、大阪では南港三角公園が開催会場となっているが、LAの『The Do-Over』とは比較にならないほどのスケール感と開放感は、日本の『The Do-Over』の大きな特徴だ。もうひとつ、本国の『The Do-Over』と大きく異なる点が、入場者に関しての年齢制限がなく、保護者同伴であれば未成年者も参加可能というところだ。アメリカではまず実現不可能な、子連れで参加する『The Do-Over』というのは日本ならではの楽しみ方と言えるだろう。
J.Rocc、King Britt、Tony Touch、DJ Craze、Dimitri from Paris、Benji B、DJ Dayなど錚々たるメンツのDJたちを海外から迎えて開催された、日本での『The Do-Over』。今回の『The Do-Over TOKYO 2019 presented by adidas Originals』では、日本勢、海外勢含めて、誰がミステリーゲストが登場するのか!? 新たな会場であるお台場シーサイドコートで、潮風を浴びながら、世界最高峰のパーティーである『The Do-Over』の空気感をぜひ味わってほしい。
The Do-Over TOKYO 2019 presented by adidas Originals公式サイト
https://thedoover.jp/
J.Rocc、King Britt、Tony Touch、DJ Craze、Dimitri from Paris、Benji B、DJ Dayなど錚々たるメンツのDJたちを海外から迎えて開催された、日本での『The Do-Over』。今回の『The Do-Over TOKYO 2019 presented by adidas Originals』では、日本勢、海外勢含めて、誰がミステリーゲストが登場するのか!? 新たな会場であるお台場シーサイドコートで、潮風を浴びながら、世界最高峰のパーティーである『The Do-Over』の空気感をぜひ味わってほしい。
The Do-Over TOKYO 2019 presented by adidas Originals公式サイト
https://thedoover.jp/