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彼女の名は「MACHINA」 新しい音楽を作るものの名前。ジャズを核に細胞分裂を繰り返す音楽

 彼女はどこにでもいける。ポップスにもオルタナティブにも。ただ願わくは、後者の路線で突き進んでほしい。彼女の名前はMACHINA(マキーナ)。古代ギリシャの言葉「Deus ex machina」から「新しい音楽を作る」という意味が込められた名前で活動する1988年生まれの韓国人だ。今から6年前、2010年。まったくの無名だった彼女はYoutubeで Apple Girlという名義で約500万回も再生される動画を作りだす。それはiPhoneを駆使してトラックを作ったり生演奏したりしながら、有名アーティストをカバーするというもの。再生回数最多はレディー・ガガの『Poker Face』、つぎにビヨンセの『Irreplaceable』(300万回再生)と続く。
 Apple Girlとしての活動で世界に存在をアピールした彼女はUniversal Musicから本名のYeo Hee(ヨヒ)として2012年に日本デビューする。現在は、インディーズレーベルyhmuicに移籍し、ソロ・プロジェクト、MACHINAとして活動している。このMACHINAは、作詞、作曲、アレンジまで自身で行うセルフプロデュースのかたちをとっているのが特徴で、最近の言葉で言えば“宅録女子”や“DTM女子”とも言える。

「曲は20歳ぐらいから作り始めました。その時はピアノで作っていました。パソコンを使い始めたのは日本に来てからです。最初に使ったのはLogicです。日本に来たばかりのときは日本語も喋れないし友達もいないし、つまらないからずっと曲を作っていました(笑)。でも一人の時間があったから、自分と向き合うことができたんです。大学を卒業して韓国でデビューしました。当時はプロダクションにも入って、プロデューサーにもついてもらっていました。でも、わたしがやりたい音楽は、こういう音楽じゃないのに歌わないといけない。そんな辛い時期もありました。音楽に対しての自分のアイデンティティがわかったのはMACHINAになってからだと思います」
 そうしてできたのが『Hear Me』と『Color Me』という2つのE.P。この2枚には多種多様な音楽が含まれている。今年2月にリリースされた『Hear Me』では、2000年ごろの和製R&Bを連想させるような「I AM YOU」。アンビエントなエレクトロニカを奏で喋りかけるように歌う「Honey Baby Darlin’」。サンバ調のリズムからロックのブレイクが急に入ってくる展開の「Liar」など5曲を収録。
 いっぽう9月7日にリリースされたばかりの『Color Me』は、ソウルミュージックをミニマルトラックで表現したような「More」。いわゆる北欧系ミュージシャンを連想する淡いメロディをダウンビートトラックで表現した「bpm 89」。アコースティックで3拍子を奏でて力強く歌い上げる「Waltz - steps」など6曲が収録されている。
 まず驚かされるのが彼女の歌唱力だ。力強いソウルフルな表現もできれば、か弱い女性の側面も表現できる。そして日本語の発音も申し分ない。取材時に「歌、すごくうまいですね」と恥ずかしいほどストレートに感想を述べていた筆者がいる。

「歌手になりたいと思ったのは7歳からなんです。高校1年生からアカデミーに通って歌を習いました。それで大学でも歌を習って。中学生のときまでは、ブリトニー・スピアーズとかのポップスを聴いてたんですけど、高校生のころからジャズがすごく好きになって。ジャズボーカリストになりたかったんです。シンガーだとエラ・フィッツジェラルドが好きでした。アカペラ歌手になりたい時期もありましたね。あとミュージシャンだとセロニアス・モンク、マイルス・デイビス、ロイ・ハーグローヴとかが好きでした」

 
写真左が『Hear Me』。写真右が『Color Me』

 
 彼女の歌での表現力は鍛錬の賜物なのだ。そしてブラック・ミュージックの匂いがするのにも頷ける。そのことを彼女に聞くと、

「『Color Me』に関してはジャズの要素をいれようと思ってはないですね。ただ、身体のなかに染みこんだグルーヴは曲に入っていると思います。例えば『more』の前半と後半とでコードが変わるとか。コード感でジャズっぽいものが出てるかなと思います。でも随分少なくしたんです。メロディの出し方とか。『bpm 89』は、トラックを作って一回歌って完成。直してません。なので、肉体的なメロディというか、メロディの伸び方とかは、ジャズっぽさが出てるのかなって思います」

 しかしジャズの何に惹かれたのだろうか?

「インプロビゼーションですね。インプロビゼーションって一番自分を出せる場所じゃないですか。私って性格的に、その瞬間を楽しみたいというところがあるので、それで惹かれたんだと思います」

 彼女のバックグラウンドにはジャズがあることがわかったのだが、エレクトロニック・ミュージックを取り入れるようになったのは何故だろう?
「心の中ではずっと好きだったんですね。でも昔は言えないというか、出せないというか。みんなが好きなわたしは多分歌だと思ったので、チャンスがなかったと思うんです。でも『Hear Me』で初めて自分でアレンジしたら、エレクトロニックな雰囲気の曲になったんですよ。『Color Me』もこういうジャンルにしたいとかは一切考えてません。自分の好きなようにやってます」

 筆者がMACHINAの『Hear Me』と『Color Me』を聴いて感じたのが、前者がボーカルを活かし、普段ポップスを聴いている人に好まれそうな音楽。後者がサウンドにフォーカスし、普段クラブミュージックを聴いている人に好まれそうな音楽だったということ。このふたつの作品のリリースは今年の2月と9月。わずか7ヶ月で何があったのだろうか?

「自分が本当にやりたいことは何か? ということから始めて『Hear Me』が出来上がったんです。『Hear Me』と『Color Me』は一緒の作品で、3年前くらい前にかたちになっていました。基本的には恋愛の曲で、出会いから別れ、そして新しい出会いまでの感情を音楽で表現しました。さっき言ってくれたように、サウンド的に変化したのはすごく自然なことでした。『Hear Me』を仕上げたときは、自分は何が好きなのか、分かりはじめたときでした。アレンジや作詞、作曲まですべて自分がやったのは初めてだったので、いろいろと試してみたという部分があったんです。『Color Me』は雰囲気を自分の好きなようにアレンジした作品。『Hear Me』のリリース後にライブを行っていくうちにアナログシンセサイザーにすごい興味が湧いてきて。それでプログラムを変えたんです。“このシンセの音を聴いてもらいたい”みたいな気持ちになったんだと思います。ただ、私はサウンドの方面に行っている途中なんですけど、メロディと歌を諦めたくないというか、どちらも大事にしたいんです。どちらかをなくすとかそういう意味じゃなくて。サウンドを大事にしながら、歌と詩とメロディも大事にしてみんなと共有したい」

 最初に彼女の音楽はポップスにもオルタナティブにもいけると書いたが、それは彼女の様々な変化を音楽から感じとれたのだ。プロデューサーのもとポップスを歌っていたとき。自身ですべてを行うようになり『Hear Me』=『私を聴いて』と自我を主張するようになったとき。『Color Me』で音楽をサウンドとして表現しだしたとき。そしてまだまだ彼女は進化の途中にいる。10代のころの鍛錬した技術を核に細胞分裂を活発に繰り返している。その興味が現在はサウンド方面に向いているかもしれないが、音楽の方向性がどこに向いても、彼女の音楽は、各シーンで受け入れられるだろう。ただ願わくは、商業的観念にとらわれず普遍的で前衛的な音楽を作り続けてほしい。そして彼女がビッグになったときにもう一度取材できるのを筆者楽しみしている。

 
MACHINA Release Information


タイトル:Color Me
レーベル:yhmusic
発売日:2016年9月7日


タイトル:Hear Me
レーベル:yhmusic
発売日:2016年2月17日


■オフィシャルサイト
http://machina.link/

■iTunes
https://geo.itunes.apple.com/jp/album/color-me-ep/id1146783586?app=itunes

■Apple Music
https://geo.itunes.apple.com/jp/album/color-me-ep/id1146783586?mt=1&app=music

■Youtube
www.youtube.com/yeoheemusic