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爆クラ! Presents ジェフ・ミルズ × 東京フィルハーモニー交響楽団 クラシック体感系 ~時間、音響、そして、宇宙を踊れ!~

 Jeff Mills(以下:ジェフ)と東京フィルハーモニー交響楽団(以下:東京フィル)がコラボレーションしたイベント「爆クラ! Presents ジェフ・ミルズ × 東京フィルハーモニー交響楽団 クラシック体感系 ~時間、音響、そして、宇宙を踊れ!~」が3月21日(月・祝)にBunkamura オーチャードホール(東京都渋谷区)で開催された。このイベントは、著述家やタレントとして活動する湯山玲子が西麻布のイベントスペース新世界(東京都港区)で開催してきたクラシックに関するトーク&リスニングイベント「爆クラ」初のライブイベント。テクノとオーケストラがどのように融合するのか、開催発表から大きな話題をよび、チケットは完売。会場の外にはチケットを求める人も見受けられた。
会場のBunkamura オーチャードホールはコンサート、オペラ、バレエのための世界有数のホール。座席は1~3階にわかれ、総客席数2,150席を誇る日本初の大規模シューボックス型ホールだ。
 
 この日のイベントは、1部と2部に分かれていた。1部は東京フィルが演奏するクラシック音楽を湯山玲子の解説とともに楽しむもの。2部はジェフ自身も登場し、オーケストラ・アレンジされた自身の楽曲を東京フィルとともに演奏したもの。
演目の合間に曲の聴きどころを湯山玲子が解説してくれる。
 
 一部は、「剣の舞」が有名なアラム・ハチャトゥリアンのバレエ組曲『ガイーヌ』より「レズギンカ」ではじまった。迫力のあるバイオリンのストリング、力強い太鼓やシンバルは、「剣の舞」にも負けない勢いのある楽曲だ。
 
 次はピアノのソロで2曲が演奏された。武満徹の「遮られない休息Ⅰ~Ⅲ」とモーリス・ラヴェルの「水の戯れ」だ。演奏者はロシアを拠点に活動している現21歳の反田恭平。この2曲はとても対照的な曲だった。「遮られない休息Ⅰ~Ⅲ」は、響きを聴く音楽といえる。一音一音の間隔も長く、聴こえるか聴こえないかわからないくらいの響きに意識がいった。それに対し、「水の戯れ」は軽やかで心地いい。しかし不協和音をふんだんに取り入れているのが特徴的だと湯山の説明があったが、ある程度訓練された人でなければ、不協和音をどこにひそませているかわからないことだろう。
武満徹の曲を演奏した反田恭平
 
 1部のひとつの目玉にジョン・ケージの「4分33秒」があった。「4分33秒」は指揮者や演奏者はステージにいるが、なにも演奏されない三楽章。指揮者の栗田博文がタクトを上げるが、すぐに下ろす。ある程度時間が経つと再びタクトを上げて、また下ろす。これを3回繰り返し、客席に向かい一礼。すると大きな拍手が起こるわけだ。なにも演奏はされていないが、無音という状態は存在しなかった。誰かの咳払いやくしゃみ、服が擦れる音、腹がなる音、呼吸する音、唾を飲み込む音。ジョン・ケージ自身も無音である無響室に入り、そのなかで自らの血液が流れている音を聴いたことから、この作品を着想したという。

 1時間強にわたりおこなれた1部の最後はオットリーノ・レスピーギの交響詩『ローマの祭り』より「主顕祭」。この曲を湯山は「お祭りを描写した作品で、ワルツだったり行進曲だったり、さまざまな場面を音楽で演奏している。その様子はDJのマッシュアップやミックスのようなもの」と説明。説明を受けて聴いてみるとそれがよくわかるから面白い。大きな中央広場なのか? 出店の店先なのか? いろいろな場面がショートミックスで繋がれていくかのようにストーリー化されていった。
 
 二部には綺麗な黒いスーツを身にまとったジェフが登場した。拍手や歓声の大きさから今日の来場者はクラブミュージックファンが多そうだ。ジェフは以前よりオーケストラとのコラボをおこなっている。『Blue Potential』モンペリエ国立管弦楽団(2005年)、『Light From The Outside World』(スタヴァンゲル・シンフォニー、ほか)。この『Where Light Ends – 光が終わる場所』の初演は2013年。以降、2014年にフランス、2015年にポルトガル、そして2016年に日本(アジア初)というながれで行われている。

 この『Where Light Ends – 光が終わる場所』は、1992年に日本人として初めてスペースシャトルに搭乗した宇宙飛行士・日本科学未来館館長、毛利衛の宇宙での体験をテーマにしたもの(この日、毛利も来場しており、紹介されていた)。本作を作るにあたり2つのことがジェフの心をうったそうだ。ひとつは、宇宙飛行士はつねに音に気をつかっているということ(宇宙空間で通常と違う音がすることは、なにかの異変を表し、生命の危険に関わるから)。ひとつは、太陽が隠れた時に本当の闇が現れること。以前よりジェフの音楽/DJは快楽的、開放的ではなく、自らへ自問自答するような音楽であり、孤独感を強く感じる音楽だった。「光が終わる場所」というタイトルにも寂しさが感じられる。ジェフのなかで、宇宙飛行士と自身の音楽観に接点を感じたのだろう。
 
 いよいよ演奏が始まる。ステージの右にCDJやドラムマシンなどが並べられ、まるで宇宙船のコックピットにも見える場所へジェフは立つ。ジェフは人の声が入った音声を流しスタートした。そこへ徐々にオーケストラが絡んでいく。ジェフの役割はドラムマシンの演奏が主だった。とくにハイハットの音が目立った。ハイハットを隙間なくならべたり、裏打ちを入れたり。もちろんバスドラムのキックもドンドンドンドンと。楽曲は約40分。早いテンポもあれば遅いテンポもある。つねに4つ打っているわけではなく、オーケストラの演奏のみの部分もある。オーケストラのメロディーにあとからドラムマンシの音をフェードインさせていく姿をみると、ジェフがオーケストの音に合わせていたのかもしれない。今回のパフォーマンスはいつものDJとしてのプレイとは異なり、ジェフがひとりのエレクトロニックミュージシャンとしてオーケストラの一員となり演奏しているようだった。
 
 このあとは、アマゾンの密林や原住民の環境保護を訴える「Amazon」、そして世界で50万枚を売り上げた彼の代表作「The Bells」が演奏される。「The Bells」はオーケストラで演奏するために作られたのでは? と思うほど心高ぶる演奏だった。最後はベルの音と弦楽器の音が静かに響き、少しの静寂をおいて大きな歓声と拍手がわいた。アンコールの催促もあったが、残念ながらアンコールはおこなわれなかった。
 
 わたしは普段、オーケストの生演奏でクラシックを聴く機会がほとんどない。ましてやテクノアーティストが作った曲をオーケストラの生演奏で聴くこともない。この日は、歓声から推測するにクラブミュージックファンのほうが多かったと思うし、わたしのような人も少なくないだろう。
 
 この「爆クラ」が面白かったのは、クラブミュージックファンとクラシックファン、水と油とも思えるファン層が同じ場所にいたこと。クラブミュージックファンにとっては1部の正統派なクラシックが新鮮だったと思えるし(わたしも湯山の解説と選曲で興味を持つことができた)、クラシックファンにとっては2部のようなドンドンドンドンと一定のリズムでバスドラムの音が入っているクラシックは普段聴かないだろう。クラシックファンが「The Bells」のような音楽を聴いてどのように思ったのだろうか? この日のジェフの音楽はダンスミュージックとはまったくの別物だったが、これによりクラブミュージックファンがクラシックに、クラシックファンがクラブミュージックに興味をもった人が多くいたら、このコラボレーションは成功だったのではないだろうか。


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