clubberiaを御覧の皆様こんにちは!
今回はこのコラム第七回にも登場してもらった calmさんと、徒然なるままにしたお話を綴っていこうと思います。
CD HATA「今も楽曲を作る時はLogicを使って、ライブの時はAbleton Liveを使うってスタイルですか?」
calm「そう。そこは2つにスパッと分けて使ってて、逆にしてみようとか、たまにこっちでやってみようとかも全然なくやってるよ。」
CD HATA「他のDAWを触ったりとかも、あまりしません?」
calm「そうだね。人付き合いと一緒で浅く広くってできないタイプなんだよね。深く広くなんてもっとできないじゃん(笑)。だったら自分がやってきたことで濃くやっていこうと思ってる。」
CD HATA「Logicで作った曲をライブパフォーマンス用にAbleton Liveに持っていく時って、グループにまとめたりしながらオーディオで書き出してって感じですか?」
calm「ううん、MIDIデータで書き出したものをAbleton Live上でソフトシンセを鳴らすようにしてるトラックが大半だよ。動作が重たくはなるんだけど、その方がフレキシブルに色々できるからね。基本的に一人でライブをやることって少なくて、誰かとセッションをしながらライブをするから、その場の雰囲気で変化させられるようなシステムにしてる。」
CD HATA「なるほど、曲の長さとかも当然その時で変わってくるだろうし、フィルターをいじったりもできますもんね。」
calm「その場で弾くパートとかもあって、一期一会しか出ないフレーズとか。ツアーで全国をまわって、何箇所かでやってたりすると同じことやってると飽きちゃうんだよね。だから10曲やろうとしてたんだけど時間がなくなっちゃって7曲しかできなかったとかもあるし(笑)。Dachamboもそんな感じでしょ?」
CD HATA「そうですね。俺ら2回同じことやろうと思ってもできない(笑)」
calm「(笑) 僕たちはある程度プログラミングミュージックだから、いわゆるバンドみたいに完全にフリーっていうのは難しいのと、calmの楽曲としてこのフレーズがきたら、あっあの曲がはじまったな!っていう部分は崩せないっていうのはあるんだけど、その場で音色を変えたりはしてて、それはMIDIデータの方がやりやすいしね。」
CD HATA「7年前もこのコラムで話をした時に、曲を作る際にソフトシンセとハードシンセをどれくらいの割合で使ってるか聞いたと思うんですけど、最近はどうですか?」
calm「ハードシンセの割合が増えた。デモの段階ではPCの中で完結させてて、ソフトシンセでフレーズを作ったり構成を決めていくんだけど、ほとんどのパートをハードシンセに差し替えてる。」
CD HATA「そうなんですね。ソフトシンセで作った音色をハードシンセに差し替える時って、音色は近いものにします?それとも差し替える時は使うハードシンセで、また音色を探しながら?」
calm「かなり近づけていく。デモの段階でもう音色を含めてイメージができあがってるから、音色が変わっちゃうと曲のイメージが変わっちゃうんだよね。」
CD HATA「なるほど。デモを作っているときに、この音色は後であのシンセのあの音色に差し替えてってことまで考えて作ります?」
calm「その意識では作らないなぁ。その曲の持っている例えばこのフレーズはエッジが効いた音色でって感じで、あくまでも曲を優先でデモを作っていく。」
CD HATA「そうすると、音色を差し替えてる時に何か上手くハマらないぞ、とかなったりしません?」
calm「たまにある(笑)。そういう時はデモの時の音色でいくか、もしくは頭を切り替えて、ガラッと変えるかするけど、やっぱりハードシンセの音色の方がキュッと締まるというか、ミックスの時に配置がしやすくなるんだよね。今はディレイとかリバーブも8割くらいアウトボードのものを使ってる。ハードウェアのリバーブって個性があるから、LexiconはLexiconの音がするし、それとソフトウェアのリバーブを組み合わせることで奥行きを作ってる。ソフトウェアのリバーブって空間の伸びが、ある所までいくとスパッと消えちゃうんだよね。ハードウェアのリバーブだと綺麗に最後まで伸びていく。それを組み合わせると空間が綺麗に作れるんだよね。ただハードウェアのリバーブを使っちゃうと後から修正がきかなくなるっていうのもあるんだけど(笑)。」
CD HATA「じゃあ結構、機材を買い足したりしてます?」
calm「買い足したりもしてるけど、基本的には昔から使ってるものを使ってるかな。今回出した“by Your Side”ってアルバムはゲストミュージシャンも無しでミックスからマスタリングまで全部自分一人でやったから、自分一人で個性をつけるしかなくて、例えば昔から使ってるjuno-106でどれくらい色々な音を作れるかってやってみたり。」
CD HATA「ドラムの音が生々しく感じたんですけど音源はどんなの使いました?例えば昔のアルバムで叩いてもらったゲストミュージシャンのワンショットの音を使ったりとかってあったりします?」
calm「アルバムごとに一回完全に頭をリセットするから過去の音源から音をひっぱってくるとかはしないな。曲によって音源は違うけど、自分でゴミ箱の裏を叩いたものを録音したりもした(笑)。その時は単音のサンプリングって使い方じゃなくて、そのプレイをそのまま録音して使った。リズムがちょっと揺れてたり、音量のばらつきとか、叩く位置で音質が変わったりとかをあえてそのままにしてオーガニックな雰囲気を出したかったんだよね。」
CD HATA「そういう部分で生々しく感じたのかも。揺れた要素があるとループ感があっても飽きないってありますよね。」
calm「そうそう!ハードウェアのシンセを取り込む時もMIDIの揺れやオーディオインターフェイスのレイテンシやらで少しずれるんだけど、でもそれを修正してジャストなタイミングにしていくより、その揺れを生かしてちょっと他のパートをずらすことで辻褄を合わせてグルーヴを作っていったりもしたよ。」
CD HATA「calmさんの作品のシンセの音色って、シンセそのものの音色を活かした音作りをしている印象があるんですけど、その辺ってどんな意識でやってます?」
calm「さっきも言ったように、デモの段階でこういう音色ってイメージがきちんとあるから、それを崩したくはなくて、例えばフィルターにしても、がっつり急激にフィルターを動かしてるような音色じゃなくて、ゆっくりフィルターが動いてるような使い方が多いかもね。少し波が揺れるように入れると気持ちいいんだよね。ロングディレイにしても効果音としてのディレイっていうより、ディレイの反射音も作曲の一部として考えてるかな。」
CD HATA「ってことは、ミックスの時に極端に言ったらDUBミックスするみたいにエフェクトをいじっていくようなことはしないって感じなんですかね?」
calm「そうだね。そのぞれのプロジェクトによって違うけど、今回はもうデモの段階でそこも含めてやりきってる。ポストプロダクションよりもプリプロダクションでの作業の比重が高い。ゲストミュージシャンがいる場合はそのプレイによって変えていく部分もあるから、その割合が変わってくるんだけどね。」
CD HATA「あとアルペジエーターを使ったアルペジオの感じが印象強かったです。」
calm「ここ最近アルペジエーターは沢山使ってる。アルペジエーターも凄い進化したじゃない。アルペジエーター独特の気持ち良さってあるよね。同じフレーズを打ち込むこともできるんだろうけど、アルペジエーターで鳴らしてるものとは何かニュアンスが違うんだよね。」
CD HATA「アルペジエーターはLogicPro内蔵MIDIエフェクトのアルペジエーターを使ってます?」
calm「そうそう。あれ色々できるよね。デモを作る一番最初の段階で、そのアルペジエーターを使ってとりあえずコードを押さえてみて、鳴った音からイメージを膨らませていくっていう手法を多く使ったな。ゆっくりの音符でも実はアルペジエーターを使ってたりもするよ。最近かなり使ってるけど飽きるまでしばらく使うんじゃないかな(笑)」
CD HATA「今回マスタリングも自分でやってるんですよね。」
calm「うん。アルバムは自分でマスタリングしたよ。レコードはマスタリングしてない状態のものを送ってマスタリングしてもらった。レコードのマスタリングは独特だから、要望として音を突っ込みすぎないようにして欲しいことと、レンジ感を広くとって欲しいことは伝えていたし、いい感じに仕上がったと思う。自分でマスタリングする時は、特に低音と高音に気を使って、色々な所で聴いて3回くらいはやり直したかな。」
CD HATA「聴く環境によって聴こえ方って、どうしても違ってきちゃうじゃないですか。凄い作品ってどこで聴いても崩れてなくて、凄いなぁと思うんですけど。calmさんの場合はどんな環境で聴き比べたりしてます?」
calm「まずは自分のスタジオで聴いて、それとは別にレコードを聴く時のリスニング用のオーディオシステムがあるんだけど、そこでも聴いてみて、あまり色々な環境で聴いちゃうと判断が難しくなってきちゃうから、自分が信頼して聞き慣れてるお店でもチェックするかな。基本的には低音をカットしてレベルを突っ込んでいくんだけど、どの辺の周波数から何dBくらいカットしていくかを見極めていくのが難しいよね。最近はあまり音量を突っ込まないでマスタリングしてたんだけど、他のCDと比べて小さすぎてもだめだし、今回は一般的なものよりは小さめかもしれないけど、バランスをとりながら結構突っ込んだと思う。高音に関してはどれだけ空気感を見せていくかと、低音のエッジも高域で調整していく。」
CD HATA「最近のマスタリングってラウドネス値を気にしてとかありますけど、どう思います?」
calm「数値を見ながらマスタリングすることはあまりしないな。音楽だから視覚的な確認をするよりもまず耳で聴いて判断していく。でも全く無視するわけじゃなくて、例えばちょっと歪っみっぽく感じたら視覚的に確認したりもするよ。マスタリングエンジニアにも色々なタイプの人がいると思うんだけど、他のアーティストのマスタリングをやる時でもミックスダウンで作られた音像を崩さないように心がけてる。」
CD HATA「マスタリングでも積極的に攻めた音作りするタイプの人もいますよね。技術的にも色々できるようになってきてますし。」
calm「自分の場合はそういう方向で求められるのならミックスダウンを手伝わせてよって言う。」
CD HATA「なるほど、確かにその方が理にかなってる!マスタリングで変にいじるよりは、それができるなら一番いいですよね。」
calm「そうだよね。でもDJミックスのマスタリングを頼まれた時に、DJミックスの場合はそれができないからオートメションを書いていったり、場面場面で音像を作っていったりしたこともあるな。」
CD HATA「DJミックスのマスタリングって大変そう。シングルのマスタリングだったら、その曲単体でどう良く聴かせるか考えればいいし、アルバムだとアルバム全体の統一感を考えつつも、1曲1曲の集まりとして考えていけばいいわけだけど、、DJミックスの場合はそれが繋がってて、ストーリー性も強くて、徐々に景色が変わっていく中で、トータルの調整していくって相当な集中力が必要そう(笑)」
calm「うん大変だった(笑)。マスタリングって、例えば人参を収穫して店頭に並べる時に、畑から抜いてきたそのままでもいいんだけど、泥を落としてあげたり、葉っぱを整えてあげたりして買いやすくするような感じなのかな。中には泥が着いたままの方が好きって人も当然いるだろうけど、泥を落としてオレンジ色がちょっと綺麗に見えるようにするとかね(笑)。ただそれを西洋人参に変えようとか根本的に変えるようなことをしちゃうのはちょっとね(笑)。」
CD HATA「そういうポリシー、元々の音を活かしていくっていうのは、さっきのシンセの音作りとも通じる話かもですね。」
calm「そういえばシンセの話だけど、今回、モノラルのシンセを少しフィルターの動きを変えたものを2回別々に録音して、それをステレオにパンして、変な広がり方をさせたりもした。あと自分の声を録音したり、ギターも自分で弾いたんだけど、そのトラック数をかなり使った。声に関しては少しづつ違うハーモニーでいくつも重ねたり、ギターに関しては全く同じフレーズをいくつものトラックに録音して、それを重ねると変なフランジングされた音になって、そういう揺らし方もしたな。ただその効果を全面に出すんじゃなくて、地味なんだけど、よく聞くと面白い感じになってる、っていうのが好きなんだろうね。隠れミッキー探しみたいなものかな(笑)」
CD HATA「(笑) 今後やってみたいことってあります?」
calm「今のスタイルは今のスタイルで続けながら、メロディー物ではなく、生楽器をプログラムっぽく聴かせて、エフェクトで加工してくような音響インダストリアル?なんて言っていいのかわからないんだけど再現できないような録音芸術。でもそれをその手法的な部分に耳がいってしまうのではなく、サラッと聴かせたい。これ見よがしに、これをやっています、みたいなのに飽きてきちゃってるんだよね。」
CD HATA「お~それも面白そうですね!しかもそのサラッと聴かせるっていう部分はcalmさんの一貫してる部分、心地よさを醸し出している源かもしれないですね。今日は面白い話ありがとうございました!」
calm「こちらこそありがとうね!」
久しぶりにcalmさんとお話したんですが、音楽ってほんと人柄が出ると思うんだけど、マスタリングや曲作り、音作り、ストイックかつ飾らないcalm節ここにありって話がきけたんじゃないかと思います。
というわけで今回はあえて写真は使わず文字だけにしてみました。
読んでくれてありがとう!
CD HATA
*****************
TRACK LIST :
01. Space is my place
02. 夜の始まりと最初の星 - Afterglow and First Star
03. 夏の終わりと言うべきか、秋の始まりと言うべきか - Ending of Summer, Beginning of Autumn
04. 刻々と変わる空の色- Sky, Color, Passing
05. Shadows and Lights
06. Mellow Mellow Sadness
07. 木陰にて - Shade of Tree
08. Before Landing
09. My Home Town
10. 陽はまた昇る - You can see the sunrise again